第2話 プロローグ ②

 まだギルドレイド開始まで数時間はあるというのに、中庭にはそこそこの数の探索者が集まっていた。今回のギルドレイドは第5層での活動を主としているため、話題性もその報酬も、好奇心を持て余した探索者を引き付けるには十分なのだろう。


「ようカノキス、調子はどうだ?」


 おれはニーナと共に中央の噴水前に設営された受付へと近づいた。もちろんギルドレイドに参加しようと集まっている探索者たちの列になど並ぶつもりもなかったし、今日に関してはその必要もなかった。


「おお、ロドリック殿。お待ちしておりました」


 したり顔で周囲の職員に激を飛ばしていたカノキスも、おれに気づくや否や態度を一変させた。前回のギルドレイドの時とは違い、カノキスは第5層の担当官という栄職に就いている。つまり今のところおれたちは良好な関係を保てているということだ。


「おれの招待客はどのくらい集まった?」


「今のところ半分ほどでございます」


「そんなもんか、もっと集まるかと思ったんだがな」


「まだ開始まで時間があります。私の見立てでは最終的に8割ほど集まるかと」


 カノキスはそう言いながら手のひらをこねた。まるでサイコロを手のひらで転がすような仕草だが、実際彼の手にそれが握られていたことはない。にもかかわらず、彼に関わった多くの人間は、それが存在していると言う。


「何人参加するにせよ、肝心なのはグループ分けだ。そっちは抜かりないだろうな?」


「もちろんでございます」


 おれの問いかけに、カノキスはわざとらしいほどの笑顔で答えた。


「なるべく取り逃がしたくはないが、事前に勘ぐられて敬遠されるのも厄介だ。表向きはフォッサ旅団と燈の馬の、新たな友好関係の構築のためだと説明しておいてくれよ」


「心得ております」


「ところで、アイラたちはどこへ行った?」


「ロドリック殿を探して王宮の中に入っていきました」


「2階の秋桜の間で待ってるはずよ」


 ニーナが早く行こう、とおれの手を引いた。


 王宮内には受付を済ませた探索者が、いたるところで大小様々な群れを作り、今日のギルドレイドの対策や、報酬の分配、夕食の献立なんかについて話し合っていた。幸いにも廊下は広いため、多少の人だかりがあっても往来を許容することはできたが、それでも中央ホールから2階へ続く吹き抜けの階段を通り抜けるのは気を使った。階段に座り込み、外庭の露天かどこかで買った食事を食い散らかしている奴らが居たからだ。


 おれはニーナの手を引いて、階段の端を上った。こういう態度の奴らは大体が燈の馬の連中だ。いや、正確に言えば元燈の馬の探索者か、他の探索者たちから腫物扱いされ、孤立してしまったがゆえに慣習から外れ、つまはじき者同士で過剰に結束を深め合う。この姿こそが、フィリスが去った後の燈の馬の末路だった。


「いってえな、てめえ!」


 階段を占領している奴らの一人に、おれの足が当たってしまった。円満な解決のために、おれはそいつとその取り巻きを、2階の窓から投げ捨てることになった。普段なら相手がどれだけ無法を働いたとしても、おれに賞賛など送られるはずがないのだが、探索者たちの心境にも変化があったのだろう。惜しみない拍手喝采が贈られた。

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