第62話 手紙
私のルキウスへ
何から書けばいいのか、正直今、すごく混乱しています。
今まできっと、たくさん迷惑かけたよね。ごめんなさい、私、自分が隠世に落ちる日がくるなんて、思ってもなかったから。
今思えば、南部戦線の途中でテオドール王が私たちに長期休暇をくれたことも、お父様が貴方と一緒になることを許してくれたことも、私がもう現世に長く留まれないことが、分かっていたからだったのね。
そして、貴方があれほど嫌っていた帝国へ行くことにした理由も、使節団が解散されてからも貴方がテルムに帰ってこなかった本当の理由も……それなのに、私、我がままばかり言って、本当にごめんなさい。
この手紙が届く頃には、私はもう誰の目にも映らなくなっているかもしれないけれど、お願い、貴方は自由に生きて。テオドール王のこともお父様のことも、私のことも、いつまでも引きずって、人生を無為に過ごすのはもう止めて。
私、今でもよく思い出すの。二人で初めて食事に行った日のこと。貴方、私と会う前から酔っぱらっていて、花屋の商品をサラダと間違えて食べてたでしょ。今だから白状するけれど、一部始終、ずっと見てたの。
でも私、春の風のように生きる貴方が好きだった。風が吹くままに、どこへでも行けそうな貴方に恋をしたの。だから、私が居なくなっても、私が愛した貴方のままで居て。いつまでも幸福なままで。ずっと愛してるわ。見えなくなってもずっとね。
だから最後に、貴方に魔術をかけてあげる。ただ幸せになる。それだけの魔術。本当は魔術って、そのためだけにあるのだから。
――貴方のシア・エミリアより
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