第40話 風と閃光 ①
「レン、レン! こっちだ」
大通りの隅を走っていたレンが、ぎょっとした顔で立ち止まった。
「おれだ、早くこっちへ」
松明を掲げ、ようやくおれのことに気が付いたのか、王宮の方面を警戒しながら建屋に滑り込むと、床にへたり込んだ。
「いったいどうした? 何かあったのか?」
レンは見るからに満身創痍の状態だった。左腕は力なく垂れ下がり、片方の耳は下半分が千切れてまだ出血が完全には止まっていなかった。
「リーダー、見つかってよかった」
レンは息を整えながら言った。
「なんだよ、戦況は……?」
おれは先ほどから脳裏をよぎる悪い予想が、当たっていないことを祈りながら尋ねる。
「最悪ですよ」レンは首を振った。
「僕とドルミドさんとソニアさんが合流したときには、もう前線は押され始めてる状況でした。敵は僕らの倍近く居たし、フィリスって魔術師が強すぎて誰も手が付けられなくて」
「フィリスと戦ったのか?」
「僕は直接戦っていません。フィリスの相手をしてたのは、班長たちです」
「班長は?」
「ラナン班長とタンドリウス班長は殺されました。今はヘイル班長とカルファ班長、あとソニアさんとドルミド先輩が戦ってます。でも、長くは持ちそうにないって……」
やはりおれの見立ては間違っていた、くそ! おれは自分の浅はかさに苛立って壁を殴った。
「すいません……」
壁はびくともしなかったが、代わりにレンがうなだれた。
「いや、お前らは何も悪くない。悪いのはおれだ」
おれは手をさすりながら言った。
「それで、お前が撤退のための先遣隊員ってわけか?」
「だったら良いんですけど、まだ誰一人として諦めたわけじゃないんです。僕がここに来たのは、リーダーを見つけて連れてきてくれって班長から頼まれたからなんです」
レンはいつの間にか消えかかっていた松明を杖に立ち上がった。
「リーダー、どうします?」
そんなこと、聞かれるまでもない。
「助けに行く」
「じゃあ、一緒に行きましょう」
「いや、お前はどっかに隠れてろ」
おれの言葉に、レンはため息を吐くと、本当にいいんですか? と皮肉な笑みを浮かべた。
「お前みたいな怪我人の助けを借りなきゃいかんほど、おれは弱くない」
レンは笑みを浮かべながら肩をすくめると、松明を床に置き、首から下げたネックレスをおれに握らせた。
「アーティファクトです。使ってください」
「効果は?」
「呼吸が楽になります」
おれは笑った。
ネックレスを首から下げ、思った以上の効果を瞬く間に実感し、もう一度笑った。
「ね? 楽になったでしょ?」
レンが少し息苦しそうに言った。
「確かに、ありがたく受け取っておくぜ」
「返してくださいね」
「それは約束できないな」
おれはネックレスを服の下に滑り込ませると、二度と返すまいと両手で握った。
「後は任せとけ」
「はい、そうします」
「王宮にもまだ少し敵が残っている、すぐにここから離れろ」
「はい、わかってます」
「魔獣にも気を付けろよ」
「はいはい」
「もしカレンシアに会ったら、おれは先に行ったと伝えてくれ」
「それは約束しかねます」
なんだと? おれは眉をひそめた。
「カレンシアさんとはついさっき会いました。リーダーに会ったら、先に行くと伝えてくれって頼まれました」
いや、そういうのは先に言えよ。まったく、最近の若者ってのは、困った奴らばっかりだ。
おれはへらへら笑うレンに、更なる悪態をつくと、建屋の裏口から外へ飛び出した。
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