第32話 黒い草原 ③
葬式は三日後、日が沈んでから行われた。
シェーリを入れた棺はいくつもの松明と共にパルミニアを練り歩き、2時間ほどかけて城壁の外にある火葬場へとたどり着いた。
星一つ見えない曇夜の中、シェーリの魂を乗せた火は高く燃え上がる。
魔術師たちは皆、死ぬとカエデクレイなる神に迎えられ、隠世に還ることができるという。肉体は既にその役目を終え、魂だけを炎で掲げてカエデクレイに見つけてもらうのだと。だからおれたちは出来るだけ高く薪を積み上げた。
テオは人目を憚らず大声で泣き続け、それに負けじと泣き女たちも声を上げた。
シェーリを一人にするんじゃなかった。居なくなったことにもっと早く気付いていれば。テオの悲しい自己嫌悪は、近く、すべてを焼き尽くすほどの怒りへと変わるだろう。
だが犯人の姿を見た者は誰も居ない。もちろん状況から考えるに、燈の馬が関わっていると推測するのが自然だろう。多くの班員らもそう思っている。
しかし、おれはそれが怖かった。確たる証拠もないまま、後戻りできない復讐の道に全員で身を投じるのか? もし間違ってたらどうする? 正しかったとしても――どうする?
おれの不安を感じ取ったのか、ニーナが後ろから強くおれの体を抱きしめた。
「もう辞めようよ。こんなの、おかしいもの。全部放り出して遠くへ行こうよ。ダルムントも一緒でいいわ。アイラだって、頼めばきっと一緒に来てくれるから。そうすれば、前みたいに4人でまた、何だって始められるわ」
ニーナはおれの背中に顔を擦りつけながら続けた。
「それでも、貴方がどうしても奇跡を望むのなら、せめて別の遺跡に行きましょ。東方にならまだまだ手つかずの遺跡もあるっていうし、ランドグシアでも大きな遺跡が見つかったって聞いたわ。明日にでも旅立ちましょ? 私、貴方と一緒ならどこにだって付いていくわ」
それも、悪くないのかもな……。
喉まで出かかった言葉も、乾いた音を立て、いっそう強く燃え上がる炎に、飲み込まれた。
きっとシェーリの亡骸の大事な部分に火が付いたのだ。
別れを惜しむように、皆の泣き声もまた強くなる。
感情のピークを経て、葬儀業者が葡萄酒を関係者にふるまい始めた。やけになって酒に飲まれる者もいれば、涙を浮かべながらちびりちびりとカップを傾ける者もいる。食事や仮眠を挟みながら、葬儀は明け方近くまで続いた。
おれは、ずっと見つめていた。
――もう何も奪わせない――
火がすべて消え、骨と灰だけが残り、火葬場が元の黒い草原に戻った後も、ひとり煌々と輝く深紅の瞳の行方を。
彼女の怒りの矛先を。
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