第17話 危局 ①
パルミニアの街中にあるフォッサ旅団の事務所で、燈の馬の連中をギャフンと言わせる更なる一手を話し合っている最中だった。
廊下を響く足音の直後、勢いよく開かれた扉が、壁に寄りかかるように立っていたドルミドの身体をしたたかと打って跳ね返った。
「いってえな!」
「すみません!」
部屋に入るや否やドルミドに胸倉を掴まれて引き倒されたのは、フォッサ旅団第4班のレンという若い男だった。
「騒がしいな、何だってんだ?」
おれは地図を広げた机から顔を上げ、椅子の背にもたれかかった。燈の馬襲撃のために第4層の地図と睨めっこしていた他のメンバーも、この機会を逃すまいと各々飲み物を片手に休憩を取り始める。
「リーダー、大変なんです! 燈の馬が!」
レンはドルミドの手を振り払うと立ち上がり、大きく喘ぎながら叫んだ。
この数週間でこんなやり取りをもう何回行っただろうか。おれは聞きたくないとかぶりを振ったが、レンの口は止まらなかった。
「燈の馬が、第4層でフォッサ旅団を襲ってます!」
おれたちは一瞬どういう状況なのか分からずに、部屋のほぼ全員で目を見合わせたりした。
現在フォッサ旅団は燈の馬と緊張状態だということもあり、迷宮探索を一時的に中止している。迷宮に滞在しているのは補給及び情報収集を担っている第3班だけだ。それもキャンプからは絶対に出ないよう厳しく通達していたはず。いや、まさか……。
「燈の馬が、キャンプに滞在している第3班の宿場を襲ったらしいんです」
そのまさかだった。レンの言葉に、皆どよめきを抑えられなかった。
「キャンプでの争いは禁止されてたはずじゃ……」
おれの前の席に座っていた。第6班出身のソニアという魔術師が呟いた。
「やつら、とうとう一線を越えやがったんだ」
ドルミドが拳を握り締めて、雄たけびと共に壁を殴る。
第4層にキャンプを設営してからずっと、迷宮内でのいざこざをキャンプに持ち込むことはご法度としていた。普段は碌な仕事をしない探索ギルドも、この決まりだけは守ろうと定期的に治安の引き締めを図るなどして対応していた。
にもかかわらず、燈の馬がこのような暴挙に出たということは、よほど切羽詰まっていたのか、それとも第4層の担当官を買収することに成功したのか。
だがこれは燈の馬、そして探索ギルドにとっても諸刃の剣だぞ……酒の席での喧嘩ってわけじゃないんだ。組織的な暴力を容認する前例を作ろうとしているんだぞ。
「襲撃を受けた第3班のほとんどは、負傷しながらもなんとか脱出できました。しかし現在も燈の馬の数名が、フォッサ旅団狩りと称してキャンプ中を徘徊しているため、逃げ遅れた一部の班員が、キャンプ近郊に身を潜めているとのことです」
レンが怒れる同士たちのどよめきを掻い潜るように言った。
「誰だかわかるか?」
おれの質問にレンは一瞬唇を引き締め、ゆっくり口を開いた。
「シェーリとテオです」
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