火車

第13話 搦め手 ①

 世の中のすべて――とまではいかないが、大抵のことは金で解決できる。

 今回の件もその例に漏れない。仲間たちの受けた痛みや屈辱は、金次第で笑い話にだってできるのだ。


「おいロドリック、本気でそう思ってるなら、いくらお前といえども許せないぞ」


 おれの話を聞いて、スピレウスが怒りを露わにする。


「勘違いするな、おれが受けた屈辱を金で許してやるようなお人好しだと思ってるのか? 何よりあいつらは、それすらすんなり払うような奴らじゃないさ」


「だったら何をやろうっていうんだこんなところで。班長たちがどんな思いで班員をお前に預けると決めたのか、本当に分かってるのか?」


「わかってるって。なあスピレウス、燈の馬の構成員がどのくらい居るのか知ってるか?」


「……確か、うちの倍は居たはずだ」


「そう、つまり経費も倍かかってる」


「収入源だって大量にあるだろ」


「それが大きな勘違いだとしたら?」


 スピレウスがおれに向き直り、腕を組む。じっくり聞いてやるからもったいぶらずに話せ、瞳は口よりも雄弁に語っていた。


「奴らの活動資金のほとんどは、帝国の皇帝派元老院議員たちからの援助で賄われている。この探索事業が発足した当時こそ、元老院議員らは愛国心と富める者の義務感でフィリスに援助していたが、昨年あたりから状況が大きく変わった。皇帝は帝位を維持するため、私財を投げうって南部戦線を維持する決断を下し、皇帝派筆頭の元老院議員サルヌスは、昨年事業に失敗して資金繰りが厳しいと聞く」


「つまり、燈の馬は経営状況があまりよくないと?」


 おれは頷いた。


「既に燈の馬の迷宮探索事業は、皇帝派元老院議員たちの営利的な思惑によって運営されている。元老院議員たちは資金を援助する代わりに、燈の馬が迷宮で手に入れた財宝の多くを徴収し金に換えてる。しかも援助される金は当初とほとんど変わらない額だ。構成員は年々増え続けているというのにな。そしてその不満を抑えるため、フィリスは王宮を占有し他の探索者から勝手に通行料を取ったり、アーティファクトを横流ししたりして小金を稼いでる」


「そういうことか……どおりで妙にけち臭いクランだと思った。ようやく合点がいった」


 スピレウスが口に手を当て、鱗が落ちたように瞳を輝かせていたが、肝心なことをまだ聞いていないことに気付き顔を上げた。


「しかし、どうやって攻める?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る