第10話 前哨戦 ③

 ドルミドに案内されたのは第4層キャンプの一角に設営された治療師用の祭壇設備だった。


 扉を開けてすぐの待合室では何人もの人間が、うめき声や泣き声を上げて転がっていた。全員の顔と名前を正確に覚えているわけではなかったが、ここに居るうちのほとんどがフォッサ旅団のメンバーなのだろう。


「ポウジョイは今治療中です」


 堅く締めた扉を指してドルミドが言った。


「治療師の気が散るので絶対に入らないでくださいね」


 何食わぬ顔で扉を開けようとするおれたちを見て、待合室内で怪我人の応急処置をしている若い治療師が忠告してきた。


「治療が終わるまでどのくらいかかる?」


「さあ、酷い状態だったから……でも先輩なら、今日中には絶対に終わらせてくれますよ」


 若い治療師は得意気に言ったが、つまるところ、ここの待合室に居る怪我人の治療は、最悪明日の日の出までに間に合わない可能性があるってことだ。おれは重傷者5人の姿を見ながら、予定通り選別を始めることにした。


 まず自力で歩けない者、つまり足を無くしているか変な方向に折れ曲がっている3人は、優先して昇降装置で地上に上げることに。ニーナならこのくらいの重傷者なら1日に最低でも二人は処置できるはずだ。あとはギルドから手配される治療師の能力が中程度だと見積もれば――ギルドと神殿の祭壇を確保できれば3人くらいは地上でなんとかなるはずだ。


 おれはドルミドと待合室で燻っている若い奴らに、選んだ重傷者を運ばせる。


「ドルミド、監督官に食ってかかるなよ!」


「わかってます……」


 残りの重傷者は二人、軽傷の奴らも入れると6人の怪我人だ。軽傷者の治療は諦めるとしても、重傷者を放っておくわけにはいかない。もし次の夜明けまでに治療が間に合わなければ、この二人は今後探索者として生計を立てていくことは不可能だろう。


「ロドリック、どういうことだ?」


 スピレウスが人を連れてやってきたのは、それから30分もしないうちのことだった。


 スピレウスは外で待っている血気盛んな野郎どもに念入りに大人しくしているよう指示すると、待合室に転がった負傷者を見て言った。


「地上で治療するんじゃなかったのか? なぜ昇降装置に3人しか乗ってない? 俺は重傷者は5人いると伝えたはずだぞ」


「そんなことわかってる。残りの二人はこっちでやるんだ」


「こっちって……明日まで間に合うのか?」


 スピレウスは奥の扉と待合室に居る治療師を交互に見ながら言う。治療師は首を横に振った。


「第3層の休息所を使えば間に合うはずだ」


 おれは言った。


「誰かが使用してたらどうする?」


「その為にお前に人を集めさせたんだ」


 スピレウスの顔から血の気が引いていくのが分かった。


「まさか、無理やり奪い取るのか……」


「できることならおれもそうはしたくない。だから第1層や第2層の休息所じゃなく、第3層を選んだんだろ」


 第3層の簡易祭壇は、上の二層に比べてまだ利用率が低い。この早い時間帯なら空いている可能性も十分ある。


「話し合っている時間はない、急ぐぞ」

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