第50話 手紙

 頼れる友人ニーナへ――


 調子はどう? 相変わらずロドリックに振り回されてるのかもしれないけど、元気でいればなによりです。


 今回手紙をしたためたのは、この間貴方から見せてもらった手紙の内容について、伝えておきたいことがあったからなの。


 あの時は信じられなかったけど、やっぱりあの使用人が手紙の中で言ってたとおり〝黒刻のシア〟が死んだって話は本当かもしれないわ。

 魔術協会を通じてジルダリア王国に照会をかけたときは否定されたんだけど、ジルダリアの情勢に詳しい魔術師に吐かせたら、どうも2年くらい前からシアとは連絡が取れてないみたいなの。もちろん公の場にも姿を見せていないみたい。

 詳しい経緯までは分からないけど、もしその時にシアが死んでいたのだとしたら、ロドリックが燈の馬を追放される原因になったあの探索とも時期が合うし、突然探索計画を早めて強行した理由も、そのことが関係している可能性が高い。

 ロドリックが何を隠しているのか、迷宮の奥にいったい何があったのか、その詳細は分からないけれど、もし想像どおりカレンシアがそうなのだとすれば……ヴンダール迷宮は、私たちが思っているより、ずっと危険な魔法則をはらんだ遺跡だよ。


 この手紙が届くころには、ブラッドムーンはもう始まっているかもしれないけど、くれぐれもロドリックの動向には気を付けておいて。

 大いなる魔術には、時として大いなる代償も要求されることがある。ロドリックがそれを支払わなくて済むよう、貴方が彼を支えてあげて。


 帝歴1221年 8月31日 ――貴方の永遠のライバル、アイラより。




 追伸

 ブラッドムーンが終わり次第、パルミニアへ戻ります。それまでにまたロドリック宛の手紙が届いたら、本人の手に渡る前に、貴方が隠しておいてね。

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