第43話 ヴンダール迷宮 第4層 王宮 一触即発 ①

 部屋を出た先の廊下では、数人の男たちがカレンシアを抱えてどこかへ向かおうとしていた。


「おい! あいつ戻ってきたぞ」


「ほらあ! やっぱり、僕の言ったとおりだったでしょ」


 扉が開け放たれる音に、震えながら振り返った男たちの表情がぱっと花開いた。


「お前たち、こんなところで何してんだ?」


 カレンシアを抱えていたのは先ほど1階で合ったフォッサ旅団の若造どもだった。全部で3人。罠にかかったネズミのようにビクついている。


「そ、そんなの、決まってんだろ!」


 3人の中で一番偉そうな小男が、ばつの悪そうな顔をした。


「というか、お前らカレンシアに何した?」


 抱えられたカレンシアは、体格のいい男の背中でぐったりと、力なく腕を投げ出していた。おれは足早に近づきながら剣の柄を握りなおす、返答次第ではこいつらも斬らなくてはならない。


「べ、別に何もしてねえって、本当だよ」


 鈍く輝く剣身を前に、小男が必死に取り繕った。それを制止するように、一番若くて線の細い――テオという青年が言った。


「僕らは君たちのことが心配でついてきたんだ。クランメンバーは全員家族と思えってのがフォッサ旅団の決め事だろ。たとえ面識のなかった新入りだとしても例外じゃないさ」


「その割に助けに入ろうとはしなかったみたいだな」


「人間だれしも自分が一番かわいいもんさ。でも君の大事な人はちゃんと助けるつもりだった。とにかく、今は急いでここから離れよう。西門のシルフを討伐しに行った別動隊が戻ってくるかもしれない」


 腑に落ちない部分はあったが、一人で意識のないカレンシアを抱え、なおかつニーナを庇いながらこの状況を潜り抜けることは不可能だ。少々頼りないが、こいつらの手を借りない理由はない。


「任せていいんだな?」


 おれの言葉に、カレンシアを背負った男が小さく頷いた。

 おれたちが走り出すのに、さほど時間は必要としなかった。


「カレンシアの状態は?」


 おれは隣を走るテオに尋ねた。


「気絶してるだけ。デイウスの能力でやられたのなら、命に別状はないはずだよ」


「奴の義眼の力か?」


「うん。グリユもそれで痛めつけられたことがある」


 テオはカレンシアを背負って走る男を視線で指した。


「奴の腕を切り落としておいた」


「わお、そりゃいい気味だ。よかったねグリユ」


 聞こえているだろうが、グリユはこちらを向いたりしなかった。やるべきときには、やるべきことを黙ってやる。そういう人間なのだろう。単に息切れして喋る余裕がないだけなのかもしれない。


「君が生きてあの部屋から戻ってくるとは思わなかった」


 テオが階段を下りたら右、と指示しながら続けた。


「燈の馬の連中から囲まれて、おまけにデイウスも居たのに、よく切り抜けれたね」


「運が良かった」


「腕が良かったの間違いじゃ?」


 どうだろうな。おれは答えなかった。

 というのも奴らも統率を取り戻したのか、上の階から大勢が追いかけてくる足音が聞こえてきたからだ。

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