第41話 ヴンダール迷宮 第4層 王宮 呪いの腕輪 ①
出会いはきっと永遠の思い出になるだろう。
一目見た時から、おれにとって特別な存在になるという確信があった。何ものにも代えられない価値があると。その美しさ、孤独にも見えるほどの気高さ、そのすべてがおれの心を打った。
共に過ごした時間は決して長いとは言えなかった。だが色あせることはないだろう。熟したイチゴとレモンの香りが鼻をくすぐるたびに、おれは今日の出来事を思い出すし、何を失い、何を得たのかを考えさせられることになる。
少なくとも、100ソリドル金貨の価値はあったはずだ。
おれはニーナにやったアーティファクトの腕輪から、かぐわしい香りと共に伸びる無数の人骨を眺めながら思った。
突如現れた骨は、よく見ると人の腕のようだった。所々朽ち果てかけ、茶色にくすんだ腕骨は、その見た目とは裏腹に、朽ちてもなお続く永久の愛情を示すかのような、ある種の美しささえ感じた。
だがデイウスにとっては違ったらしい。その眼孔に埋め込んだアーティファクトが何を映したのか知らないが、女のような悲鳴をあげながら後ずさる様子を見るに、お気に召す光景ではなかったのだろう。
「リック……?」
そんな中、当の本人であるニーナは何が起こっているのか理解できず、困惑した表情でおれを見た。それと連動するかのように腕骨のいくつかがおれの方向に手首を曲げる。
しばらくは傍観者を気取るつもりだったおれもそうは行かなくなった。ニーナの腕輪から現れた腕骨は、床を這うようにおれに近づいてきたからだ。組み伏せられているため逃げることもできない。
「なんだよあれ……」
おれを取り囲んでいる日和見集団の中には魔術師も混じっていたのか、このおぞましい光景を共有できそうな奴も居たようだが……残念ながら、おれを押さえつけている力自慢たちの中には居そうになかった。
腕骨はおれの顔のすぐそばまで迫っていた。誰も手を放して逃げ出す奴は居ない。覚悟を決めろ。おれは目を閉じた。
腕骨はおれの頬をそっと撫でたり、つまんだりしながら唇に移動した。柑橘系の果物の香りと混じって、時折漂うすえた臭いが鼻をついたが、その触り方は、どことなくことに及んでいるときのニーナの手つきに似ていた。
腕骨はあらかたおれの感触を楽しむと、まるでそのお礼とでも言わんばかりに、おれを押さえつけている奴らの手を掴み、捻り上げ、引き剥がしてまわった。
瞬く間に周囲は騒然となった。男たちはまるで纏わりつく羽虫を振り払うように、見えない敵と必死で戦い始めた。
おれはその隙に立ち上がり猿ぐつわを取る。すかさず腕骨の一つが床に落ちた剣を拾い上げ、おれに差しだした。どうやら味方のつもりらしい。
「ありがとう。お嬢さん」
おれは女の骨であることを祈りながら礼を言った。男のだとしたら……きっとおれよりダルムントのほうが気があうだろう。
おれは剣を構えて印を結んだ。
何人かのベテランが逃げろと叫ぶも、新入りたちは聞き入れる様子は無かった。
魔術を使える者たちが一斉に魔術障壁を張る。
おれは集めたエーテルを変換させ、装剣技を発動させる。
力比べといこうか。おれは剣を振りかぶった。
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