第37話 ヴンダール迷宮 第4層 王宮 中央棟 ②
「なんか勘違いしてるんじゃないか? おれはフォッサ旅団所属のユリウスってもんだ。北区画に向かう途中、騒がしかったからちょっと寄っただけだが」
「はあ? ロドリック、お前がフォッサ旅団に入ったなんて話、初耳だな」
おれの嘘はあっさりと看破されてしまった。そもそもこんな稚拙な言い分が何度も通用するわけがなかった。さっきのガキどもが奇跡的なアホだったに過ぎなかったのだ。
「別にあんたらの邪魔をするつもりは無かったんだ。なんとか話し合いで解決できないか?」
おれは両手を上げて降参の意思表示をした。
「あれだけのことをしでかして、よくそんなこと言えたもんだ。おいお前ら、このゴミクズを取り押さえろ」
その言葉を合図に数人の男が進み出る。新入りばかりだ。おれが大人しくお縄につく素振りを見せたからか、それともおれのことを知らないからか、どことなく緊張感に欠けている。やるなら今だ。
おれは右手を掴もうとした男の手を捻り上げ、脇腹に拳を見舞う。
そして正面の男を投げ飛ばすと同時に剣を抜いた。
「こいつやる気だぞ! 全員離れろ!」
おれの魔術を見たことのある奴らから、我先にと距離を取り、攻撃範囲内から逃れようとする。
「酷い奴らだな、新入りにもちゃんと教えてやれよ、おれのことを」
先輩たちの行動を見て、困惑した様子の若い男数人が、おれから離れず立ち尽くしていた。
「お前らも離れろ! 斬り殺されるぞ」
「皆大げさですよ。ロドリックだかなんだか知らないけど、ただのおっさんじゃん」
「いいから下がれ! 剣が届く距離には絶対に近づくな! 魔術でも鋼鉄でも絶対に防げないぞ!」
威勢が良かった新入りも、先輩らのただならぬ様子から何かを感じ取ったのか、納得いかないながらもしぶしぶ後ずさり始めた。
穏便にこの場を去りたいおれと、死人を出したくない留守番部隊の利害が奇跡的に一致した。逃げるなら今のうちだな。
「いや、そこまでだ、ロドリック」
周囲をけん制しながら、人だかりを抜けようとするおれを、聞き覚えのある声が引き留めた。
大きく息を吸い込み、振り返る。
今一番会いたくなかった相手が、視線の先に立っていた。
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