第25話 ヴンダール迷宮 第4層 東区画 捨てられた砦 ⑥
まるで百人隊が一斉に矢の雨を降らせたかのようだった。
ヴァンパイアから放たれる液体によって、窓を覆ったカレンシアの〝水障壁〟は、今にも破れそうなほどうねりをあげていた。
近づくことすらままならなかったというのはこういうことだったのか。おれたちは部屋の隅でなるべくカレンシアの邪魔にならないよう縮こまっているしかなかった。
10分ほどでカレンシアの額に汗が滲みだした。対するヴァンパイアは窓の外、通りを一つ挟んだ建屋の屋上からひたすら攻撃を続けている。
「すいません。あと1時間くらいしか、持ちそうにないです」
見た目よりずっとヴァンパイアの攻撃は強力だったのか、カレンシアの障壁はものすごい勢いで周囲のエーテルを消費していた。当然そのエーテルを支配、属性変化させる工程でカレンシアの魔力も大量に消費されていく。
おれはイグ、スピレウスに覚悟を決めるよう視線で訴えた。
「夜明けまであとどのくらいある?」
おれはニーナに尋ねた。
「光が灯るまで約2時間、どうするの?」
「決まってる。おれたちで時間を稼ぐんだ」
「彼女の障壁はあと1時間しか持たないんだぞ?」
スピレウスは無理だと言いたそうだった。
「いいや、あと30分で切り上げさせる」
「じゃあ障壁無しで1時間半しのげっていうのか?」
「違う、カレンシアが一人で30分凌いで、次はおれたち3人で30分凌ぐ、そのあとカレンシアにもう一度限界近くまで障壁で粘ってもらって、それでも夜明にならなければ撤退戦で時間を稼ぐ。30分間だけなら、おれたちだけで凌げるだろ?」
「30分か……」
スピレウスが困惑した様子で呟いた。
「本当にどうしようもなくなったら、おれが一人でなんとかする」
おれの言葉にスピレウスがはっと顔を上げてかぶりを振った。
「何言ってんだ。それは俺の役目だ。元はと言えば、全て俺のせいなんだから」
「もう、死ぬときのことばっかり気にしてないで、まずは最初の30分間の作戦を立てなよ」
ニーナが男同士のくだらない仁義に釘を刺した。
「そうだな、じゃあ――」
おれは必死で障壁を維持し続けるカレンシアを横目に、次の30分を生き残る作戦を立てていく。
障壁なしで30分間、本当にこいつと戦えるのかは、言い出しっぺのおれですら懐疑的だった。イグとスピレウスはそれ以上だっただろう。
それでも約束の時間はやってきた。そのときには杖を持つカレンシアの手は震え、汗は顎から床にポタポタと垂れ始めていた。
「時間だぞ、マルスに祈れ」
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