第15話 路地裏の追跡者 ②
昇降装置ってのは偉大なもんで、午前いっぱい探索を行って地上に帰ってきても、外はまだ昼下がりになったばかりってところだった。
通り雨が過ぎ去ったばかりなのか、迷宮のほうが過ごしやすかったのではと錯覚に陥るほど蒸し暑く、かといって今から居酒屋で一杯ひっかけて涼むにはまだちょっと時間が早かった。
どうやって時間を潰すか迷った挙句、おれはカピナ商業施設に行って次の探索のための買い出しでもすることにした。第4層のキャンプを拠点に大空洞の壁を削り取るだけならそれほど食料品は必要ない。代わりにいざというときのための護身道具をいくつか買い足したかった。もちろんすべて経費としてテリアに請求するつもりだ。
おれは商業施設の1階から3階までじっくり回り、途中でキルケをひやかしたりしながら気に入った物をいくつか購入した。たいした量ではなかったが、すべて探索ギルドの受付に直接届けてもらう手続きをした。この方法を使えば自宅から迷宮に行くまでの間、大荷物を背負って衆目に晒されずに済む。輸送費用が余計に掛かってしまうという欠点はテリアの財力が解決してくれるだろう。
買い物を終えた帰り道。酔っぱらったところを狙われる前に、おれは決着をつけることにした。
カピナ商業施設についたころから感じていた気配。誰かがおれをずっとつけている。何が目的かは知らないが、本人に声もかけず1日中こっそりついて回る奴なんて、どの道碌な用事じゃないはずだ。
おれは大通りから路地裏に体を滑り込ませ、建屋と建屋の隙間に体を隠す。
標的を見失って焦る足音が、目の前を通り過ぎた。
おれは咄嗟に後ろから飛びかかる。この暑さにも関わらず、肌ひとつ見せないローブを羽織り、顔を隠すため深めにフードを被ったいかにも密偵って感じの男だった。おれは後ろから羽交い絞めにしてその正体を露わにしようとフードの端に手をかける。
次の瞬間だった。密偵を中心に突如としてエーテルの奔流が起り、おれは避ける間もなく路地裏の壁にしたたか背中を打ち付けた。
油断した。魔力と実際に動いたエーテル量からしてアーティファクト使いか?
おれはすぐさま立ち上がると、マントの奥に隠した剣を抜いて相対した。男は辛うじて見えるフードの隙間から口角を上げると、両手を開いて上にあげた。
何も持っていないぞ。そうアピールをしたあと、拳を握り前に突き出す。
舐めた真似しやがって。さっきのアーティファクトにしても殺傷能力があるようなものではなかっったし、要はおれと遊びたいってことらしい。
おれは剣をしまうと、半身に構えたまま片方の拳を顎に寄せ、もう片方を胸の前に突き出した。両手とも相手の男のように強く握らず軽く開いたままだ。
男はおれの構えを見て僅かにだが腰を落とした。おそらくレスリングがおれの徒手格闘のルーツだと思ったのだろう。だが残念、もっと凶悪で下品なやつだ。
おれはタックルすると見せかけて、低い体勢から拳を突き上げた。男は上半身を逸らしてそれをかわすと同時に、左拳を刺すように素早く放った。鼻っ面を掠めおれは思わず仰け反る。
「やってくれたな」
おれは唇を伝う鼻血を舐めて強がった。ボクシングか……しかもなかなかいい腕だ。競技会の選手か何かだったのだろうか。
男はおれの反応を見てまたニヤリと口角を上げた。この時にはもう男の正体がわかっていて、容赦の必要がないことも悟っていた。
おれは拳を握ると再度男に肉薄した。
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