敗北者のテスタメントゥム
第14話 路地裏の追跡者 ①
「約束どおり採ってきてくれたな。今回はちょっと色を付いといてやったからよ。次も頼むぜ」
昇降装置の監督官が、にやりと金歯を見せつけた。
予想どおりの展開だった。空色の鉱石をここまで綺麗に切り出せるのは、現状ではおれの装剣技だけだ。採掘を自重していれば買取価格を上げてでもおれに縋りついてくると考えていたが、まさかここまでうまくいくとは。
監督官はおれに今までの相場より遥かに多い400セステル分の銀貨を握らせると、おれの気が変わる前に奴隷たちに鉱石を運ばせた。
「ギルドへの取得申請はいつもどおりこっちでやっとくから、しかるべく頼むぜ」
監督官の言葉には若干の含意があった。
これが不正行為の片棒であることはこちらも重々承知の上だった。おそらくはおれから受け取った鉱石の量をギルドに代行申請する際、ちょっとばかりちょろまかして一部を懐に入れるのだろう。まあ、こちらとしてはギルドの受付を通すより多くの金を貰えるので、今更そのことを根掘り葉掘り暴くつもりもないが。
おれはそのまま昇降装置で地上へ戻ると、ギルドのアトリウムの片隅にあるベンチに腰掛け、今回の報酬を山分けした。
「こ、こんなことで、私を懐柔できるなんて、思わないでくださいね」
まさか自分の分も貰えるとは思わなかったのだろう。受け取った100セステルをまじまじと見つめたあと、イグが気を取り直して言った。
「別にそんなつもりはない。荷物持ちだろうと何だろうと、一緒に探索したなら山分けするってのはおれのポリシーみたいなもんだ」
満更でもなさそうなイグの反応を見て、おれはこの調子で少しずつこいつを共犯者として引きずり込めればいいと考えていた。
下層を目指している振りだけして、第4層でひたすら鉱石を掘って売り捌き、のらりくらりとテリアの追及をかわす。いよいよごまかしきれなくなったら全員で夜逃げでもすればいい。もちろんその間の経費はテリア持ちだ。
完璧な計画に思えた。ひとつ気がかりなのはダルムントの動向だが……今頃どこをほっつき歩いているんだか。
おれは仲間たちと別れたあと、念のためもう一度ギルドの受付に寄り、受付嬢のサーラに尋ねてみた。
「ダルムントさんは6日前の入場を最後に、出入記録の更新が止まってます」
やはりあれから一度も地上に戻っていないようだ。タフな男だから長期間の探索でも問題ないだろうが、それでもここまで長いと心配になる。
「シェーリポラフの出入状況は?」ダメ元で聞いてみる。
「ごめんなさいロドリックさん。所属クラン外の探索者の個人情報は教えられません」
そうだろうな……おれは肩をすくめると、サーラと今度食事に行く約束をしてギルド本部を後にした。
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