捨てられた紙切れ
ルキウス・エミリウス・ロドリック様へ
旦那様お元気でしょうか。突然このような形でお手紙を書くことを最初に謝らせてください。そして遺言どおり私を解放してくださったこと、ここに重ね重ねお礼申し上げます。
しかしながら、奥様の葬儀の場でも申したとおり、私が旦那様にお仕えしているのは奴隷だからではなく、私が自分自身の意思でそうしたいと願っているからでありますゆえ、自由の身になってもこうして厚かましく、図々しくも屋敷に残りルキウス・エミリウス家を守り続けていることをお許しください。
本題に入ります。先月半ば、この屋敷にマリウス様と徴税官とサラダ売りの営業以外に久々に客人が参られました。その客人はどこか異国情緒のある美しい女性で、身なりも良く、遠くからはるばる旦那様を訪ねて来たということでしたが、その動機や振る舞いに若干の疑義を感じたためこうして手紙をしたためた次第です。
というのも、客人は連なる名を名乗らないどころか、私が旦那様はもう何年もここには帰ってきていない旨をお伝えしても、特段がっかりするような素振りもなく、旦那様の幼少期のことや家族構成などをしつこく聞いてきたのです。まるで旦那様が居ないことをあらかじめ知っていた様子すら感じました。
危険を感じたため、旦那様の叔父上であるマリウス様を訪ねるよう申し向けて対応を打ち切ったのですが、結局マリウス様のところには現れなかったとのことでした。
その後、マリウス様の手をお借りして、その者の正体を探ったところ、一人の人物が浮上しましたのでここに分かった限りの情報を記しておきます。
階位・帝国魔術省第1級魔術師
役職・帝都宮廷魔術師
氏名・アイラ エライザ
この者、狂気に墜ちた魔術師を連想させるような、独特の、演技かかった雰囲気を感じました。接触の際は十分お気を付けなさってください。
そして願わくば時がすべてを洗い流し、一日も早く旦那様が屋敷に戻ってこられることを願っております。シア様も、きっとそれを望んでおられるはずです。
王国暦489年 5月1日 ――ルキウス・エミリウス家従者、エミリウス・レノより
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます