第91話 手紙
親愛なるシアへ――
拝啓
花が過ぎ、新緑がさすこの頃、いかがお過ごしでしょうか。
こちらは最近は迷宮に潜ることもなく、地上での生活が長く続いております。
仲間たちも各々気ままに過ごしているようで、先日聞いた話によればニーナはパルミニアの富裕層女性をターゲットに資産運用のアドバイスを行っているらしく、書字板片手に忙しなく街を回ってるようです。
ダルムントは現在シェーリという女魔術師と共に迷宮で人探しを続けています。もうそろそろブラッドムーンが近いので準備を始めろと言ってるのですが、なかなか人助けが止められないようです。彼らしいと言えば彼らしいのですが、近年の帝国歴では月の重なる日にずれが生じ始めているため心配ではあります。
私は私で、近頃は美術品の収集や販売を行って生計を立てているのですが、御心配なく。貴方からすれば、私が突然真っ当な生活に目覚めたということに、何か裏があるのではと勘繰ってしまうでしょうが。私はもう探索者という不安定な職業にうんざりしてしまったのです。それに長年の探索ギルドへの不信感もぬぐい切れないところまできてしまいました。
というのも先月、迷宮探索中にちょっとしたトラブルに巻き込まれまして、探索ギルドから無期限の謹慎処分と幾ばくかの賠償金を一方的に請求されてしまったのです。
この件に関して私の落ち度は一切なく、ギルドの理不尽な裁定に対して弁護人を雇おうかと考えております。この行動に関してはダルムントとニーナも、私の行動を支持するとのことです。
来週には探索ギルドとの間に話し合いの場を設けたいと思っておりますので、追って結果を報告いたします。
王国暦489年 8月2日 ――貴方のいかした情夫、リックより
追記
探索ギルドから連絡がありました! 私の謹慎処分解除とそれに伴う損害の補償について話し合う用意があるとのことです。まさに神々の奇跡としか言いようがありません! 罪が許されたどころか、ひっくり返って無罪になったのですから。
今から話し合いが楽しみでなりません。出来るだけゴネてギルドから大金を引っ張ってきますので、貴方も首を長くして待っていてください!
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