第66話 ヴンダール迷宮 第3層 花園 ④
おれはそれ以降も、アイラを含めた数人の仲間と共に、幾度も花園へ足を運んだ。
他の調査団の面々が第4層へと探索の拠点を移しても、おれは自分のせいで殺してしまった仲間の手前、そう簡単に花園の攻略を諦めることができなかった。
それに、当時は地上でも毎日のように問題が発生し、おれたち合同調査団も政治的な思惑に振り回され解散の岐路に立たされていた、おれはそういう煩わしさから逃げるように迷宮探索の頻度を上げていった。
もちろん結果が全くでなかったわけではなかった。おれとアイラを中心とする数名のチームは、少ない人員と予算の中、ドライアドが現れて人を襲う条件を探りつつ、同時に宿木の場所を特定しようと第3層中を探し回った。
その中でもこの花園という特殊な部屋はその性質上、最も怪しいと思われてた場所だ。当然ながらありとあらゆる視点から調査を行ったし、おれも何度も装剣技で壁を切り裂いて隠されたルートが無いか確かめた。
「だけど何も見つからなかったってこと?」
おれの昔話に耳を傾けていたシェーリが言った。
「そうだ」
「でも『揃い靴』はここだと示してる……」
諦めきれないダッカが独り言のように呟くも、それきり黙り込んでしまった。
ここに居る探索者は優劣はどうあれ、全員ベテランであることに違いはない。この先は行き止まりで、もう正解に辿り着くことはないと、皆長年培ってきた経験則から気付いていた。ただ一人のビギナーを除いて。
「きっと他に方法があるはずよ。最初の調査団だって人間だもの、見落としだってあるでしょ。部屋の中をいろいろ調べてみましょ」
ここが思考の袋小路だと、気づいてすらいないシェーリが呑気な声で言った。今更おれたちがどんな手法で調べたとしても、新たな仕掛けを見つけられるとは思えなかったが、柄にもなく昔話なんてしちまったせいか、おれは彼女のその前向きな姿に、うっすらとアイラの面影を重ねていたのも事実だった。
「例えば、そうね……床はどう?」
シェーリが石畳をブーツのつま先で叩きながら、さっそく新たな案を出してくれた。
「もしかして、この部屋の真下にドライアドの宿木があって、その枝が天井から石畳を突き破り、この階層に花を咲かせてるって言いたいのか?」
「そう! それ!」
シェーリがはっとした顔で手を叩く。
「もう試したよ。ずっと前にな」
「じゃあもう一度、試してみたら?」
「どうしても、自分の目で確かめないと気が済まないっていうなら、ここでもう一度斬って見せてやってもいいが、おれの装剣技はそう何度も連発できない。今日試せるのはあと2回程度しかないぞ」
おれはもう一度剣を抜き、装剣技の準備に入る。
「どうすんのおっさん、もう一度試してみる?」
シェーリが落ち込むダッカにつんとした口調で問いかける。ダッカは慌てて頷いた。
「じゃあどいてろ」
おれは花に当たらないように細心の注意を払いながら、先ほどの壁と同じように、床に剣を突き立てた。
これでこいつらも目が覚めるだろう。いつまでも同じことに固執し続けても意味なんてないと……。
いや、心のどこかで期待しているのは、もしかしておれのほうなのか。
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