第61話 果実の行方 ⑩

「何で、あんたがダッカと一緒に居るんだ?」


 荷台に座っていたのは探索ギルド幹部職員のカノキスだった。あまりにも意外な展開だったため、おれは本件の黒幕であろう男を前にしてかなりマヌケな質問をしてしまった。


「彼とは最近知り合った友人でね、先ほど偶然にも通りで見かけたので、食事に誘っただけですよ」


 カノキスは目を細めながら、本当にごまかす気があるのかどうか怪しいくらい、白々しい言い訳をした。


「信じると思うか? そんな話」


「疑り深い貴方には無理でしょうね」


 カノキスは観念したように笑うと、おれに座るよう促した。


「構うな、おれはこのままでいい。それよりすべて話してもらうぞ、いったいなぜこんな男と手を組んでまで、宿木を見つけようとした?」


「いろいろと、事情がありまして」


「その事情ってやつのせいで、こっちはとんだ迷惑だ」


「そんなつもりは、こちらにはなかったのですがね」


 カノキスはおれに対して謝罪する気はないようだった。酔っ払いが横断歩道を渡り切ったのか、馬車はまた動き出し、荷台を不規則に揺らす。同時にダッカも上半身を起こし、よろよろと帆にもたれかかった。


「じゃあすべてこの男が勝手にやったとでも言いたいのか?」


 おれは立ったまま、顎でダッカを指す。また先ほどのように痛めつけられるのではないかと思ったダッカが、助けを求めるようにカノキスを見た。


「彼は何も悪くありませんよ」カノキスは言った。


「へえ、じゃあおれの仲間がドライアドに攫われた件は、いったい誰が悪いってんだ?」


「強いていうのなら、貴方自身ですよ。エミリウス・ロドリック」


 カノキスは昔よくそうしてたような、得意気な笑みを浮かべて言った。


「そうか、言いたいことはそれだけか?」


 おれは右足を半歩下げて構えると、ベルトに隠したナイフに手をかけた。不規則に揺れる荷台の中で、問題なく立っていられるのはおれだけだ。にもかかわらず、カノキスは笑みを浮かべたまま身じろぎすらしない。この余裕は何だ? 嫌な予感が汗と共に背中を伝う。


「そう警戒しないでください。私と貴方は一蓮托生の仲だったはずでは?」


「そりゃ昔の話だろうが……」


「昔の話……ですか」


 一瞬だけ、カノキスの細い瞳に殺意が宿った気がした。だがそれもすぐ得意気な笑みにかき消された。


「目的地まではまだ時間がありますし、少し昔話でもしましょうか」


「どこへ行くつもりなんだ?」


「言ったでしょう。食事ですよ」


 好きにしろ。おれは鼻をならしてナイフをベルトに閉まった。だがいつでも動けるように立ったままだ。その姿にカノキスは苦笑しながらも話を続ける。

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