第31話 ギルドレイド ②

 カッシウス広場の入口付近、列とも呼べぬほど混沌とした群衆の一番後ろで、おれはふてくされるように壁に寄りかかっていた。


「ようリーダー。こんなところでどうした? 待ち合わせ場所はギルド本部の2階だろう」


 そんなおれの話し相手になろうと、最初に目の前に現れたのは、もちろんダルムントだ。


「この人込みの中を掻き分けてまで、ニーナが待ち合わせ場所に来るとは思えなかったんでな」


 おれは言った。ダルムントもこれには同感だったようで、いつも我がままばかりのニーナに対する、ちょっとした陰口で盛り上がったあと、調子に乗ったおれがニーナの北方訛りを真似して、ダルムントの笑いを誘おうとしたとき、ようやく通りの角から本人がやってくるのが見えた。


「相変わらず、貴方たち早いわね」とニーナ。深く被った外套の隙間から、気怠そうな顔を覗かせる。


「おはようございます。遅れてすいませんでした」カレンシアも一緒だった。


 この二人は現在とある理由で同居していた。まるでアイラが居た時のように、お揃いの外套を着こんで仲睦ましそうにも見えるが、実際のところはどうなのだろう。おれとダルムントがそうしたように、毎晩おれの悪口で盛り上がっている可能性もある。


「おう、これで全員揃ったな」


 おれは壁から背を離すと、今しがた来たばかりの仲間たちに、大渋滞している群衆の列を顎で指した。


「まあ見てのとおり、今日は大盛況だ」


「ねえ、私もう帰っていい?」


 人の多いところが苦手なニーナが、それを見て間髪入れずに文句を垂れた。


「それで、どういう事情があってこのような状況になったのか、そろそろ説明してくれるか?」


「ああ、そうだな――」


 ダルムントの言葉を皮切りに、おれは事の経緯を説明する。増えすぎたガルムのこと、そしてギルドレイドのこと、あとニーナにはカノキスのことも、ちょっとだけ……。


「ギルドレイドか……いいんじゃないか? 俺たちの目的地も、ちょうど第3層だろう?」


 ダルムントはそれを好意的に受け取った。

 カレンシアはいつもどおり、どちらでもいいという様子。


「参加するなら参加するでいいけど、なるべく人の少ないルートじゃないと嫌よ」


 珍しいことに、ニーナもそう悪い反応ではなかった。


「そうか……」


 おれはギルド本部の入口まで続く長い列を眺めて、大きくため息を吐いた。


 これがよくある冒険小説や喜劇の中なら、ギルドレイドに参加することで、新たな冒険の章へと続くきっかけにもなるのだろうが。

 生憎おれは物語の主人公になれるような素養もなければ、ましてやこれは王道を行くような物語の中でもない。


「やめとこう、今日は解散だ」


 人が増えれば、その分おれに恨みを持つ人間が居る可能性も増える。なにより、こういう華々しいイベントは、おれの柄じゃあなかった。


「その代わり、次の探索は明後日だ」


「理解した」


 次の集合日時と時間を大雑把に決めると、短い返事を残して、ダルムントはそそくさと帰っていった。


「じゃあ、お前らも風邪ひかないように、さっさと帰れよ」


 おれも公衆浴場でマッサージでも受けようと、フードを深く被りなおしたそのときだった。


「待ってよ、どうせ暇なんでしょ?」


 ニーナから外套を掴まれた。


「買い物に付き合ってくれない?」


 もちろん、おれは断った。

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