第25話 探索ギルド 待合室 ③
「リーダー居るか?」
声の主はダルムントだった。ちょうどいいタイミングで席を立つ口実を得たおれは、迷うことなく扉を開ける。
「ああ、どうした?」
「彼らに支払う報酬の折り合いが付いた。二人分、合わせて200セステルだ」
「高すぎないか?」
おれはダルムントの後ろに並ぶ二人の男女を睨みながら言った。
助けて貰う側だったおれが言うのもなんだが、どうせお人よしのダルムントのことだ、折り合いどころか相手の言い値を呑んだだけに違いない。
「私たちを殴った分と、ワーラットの討伐代も含めての値段だもん」
口ごもるダルムントの後ろから、女のほうがひょこっと顔だけ出して言った。
どういう意味だ? 疑問を口に出そうとする前に、おれはこの女の顔に見覚えがあることに気が付いた。暗い赤毛に、赤いローブ……まさかな?
「覚えてない? 実はこの二人、貴方がワーラットから助けてあげたパーティーの片割れなのよ」
動揺しているおれの後ろで、ニーナがなんだか楽しそうに言った。
残念ながら覚えているとも、おれが何発か小突いて最終的にワーラットの耳を巻き上げた奴らだ。しかし、あの時は確か4人組だったはずだが……まあいいか。
「つまり、守銭奴ロドリックによる被害者の会の一員だって言いたいんだろ?」
「それは解釈次第ね。でも嫌われ者の貴方のことを、あの時の恩返しに助けようとしてくれたんだもの。貴重な出会いに、それなりの報いは必要だと思うけど」
いつもなら真っ先に値切るであろうニーナですら、この金額は妥当だと考えてるのか……それならおれが、これ以上ごねる意味はないな。少なくとも金額に関しては。
「わかったよ。今回の件に関しては、おれが足を引っ張っちまったんだ、お前らの好きにしてくれ」
それに、なんだかんだでこの6日間、無収穫って訳でもなかった。200セステルでニーナの詰問から逃れられると考えれば、まあまあ安いもんだ。
「じゃあこれ、貴方の手から直接渡してあげて」
「嫌な役回りだなおい」
おれはニーナに手渡された4枚の銀貨を、手の中でカチャカチャ鳴らしながらため息をを吐く。
「ほら、早く」
促されて、前へ進み出る。ダルムントが道を開け、後ろに居た男女と対峙する。
どっちもまだ子供だ。女のほうが若干大人びてはいるが、帝国の魔術師だってことを考えると魔術院を出たばかりくらいの年齢か。こんな世間知らずのクソガキ、この調子じゃすぐ死んじまいそうだ……ちょっとくらい、激励の言葉を添えてやるとするか。
「さらに50セステル上乗せしてやるから、今晩おれの寝室にこないか?」
そしてやはりというか……いや、またと言ったほうがいいのか。おれは頬をぶっ叩かれることになった。しかもさっきと同じ場所、せめて逆の頬にしろよ。
「最低! ユーリ、もう帰ろう!」
娼婦扱いされ顔を真っ赤にした女は、おれの手から銀貨をひったくると、隣に居た男の腕を引いた。
「申し訳ありません。姉は冗談が通じるタイプじゃなくて」
ユーリと呼ばれたその男は、女に引っ張られながらも、名残惜しそうに振り返って頭を下げた。
「気にするな、女はみんなそうだ」
「うるさい! 死ねおっさん!」
その言葉に、さらに速度を上げ去っていく女、気まずそうに何度も振り返りながらそれに付いていく男。
「これで良かったのか?」
ダルムントが、少し寂しそうな目でおれを見た。
「さあな」
「ロドリックって、いつもは飄々としてるくせに、こういうときだけ妙に不器用な男だよね」
ニーナがおれの背中を突っついた。
「ロマンチックだと言い換えてくれ」
おれは彼らが去ったあとも、しばらくその場で、頬に残った痛みを噛みしめていた。
これであのビギナーも、正真正銘ロドリックの被害者だ。
もう二度と関わることもなければ、おれたちと付き合っていることで、大手のクランから目を付けられるなんてこともないだろう。
だが人生とは、往々にして思いどおりにはいかないものだということを、改めてここに書き留めておくとしよう。忘れっぽい自分のためにもな。
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