第39話 出会いは永遠 ①
私が彼と出会ったのは、4年前の、雪の降る日だった。
その年の冬は寒く、ルテティアのヴェステ神殿から迷宮都市パルミニアに派遣されたばかりの私は、同期の仲間たちと共に、身を寄せ合うように探索ギルドの一室で火にあたりながら、緊張と、これからの生活への微かな期待と共に、じっと炎を見つめていた。
「お待たせしてしまい、大変申し訳ない」
ノックと共に入ってきた男性は、肩につもった雪を払いながら、穏やかな表情で私たちの前に立った。
彼の名は、確かカノキス。何度かヴェステ神殿で見かけたことがある。いつも流行りの書籍や、蜂蜜菓子を持ってきては、巫女を集めて迷宮探索が如何に面白く、安全で、将来性のある事業であるかを力説していたのを覚えている。探索ギルドの職員だと言っていたが、本当のことだったなんて。
このころの私はまだ、探索ギルドの職員と探索者の区別がよく付いておらず、迷宮探索に携わる者というのは、話で聞くよりずっと紳士的で、清潔感のある殿方なのだと、感心するばかりだった。
「ささ、皆さまどうか、座ってください」
一斉に立ち上がって頭を下げる私たちに、カノキスは低い物腰で席を勧めた。
「ありがとうございます」
私たちの中で、一番年長のユニアが、代表して微笑むと、率先して席に着いた。他の数人もそれに続いて、ようやく私も腰を下ろせた。
「ルテティアのヴェステ神殿からここまで、長旅でお疲れでしょう。宿のほうは手配
しておりますので、今日はそちらでお休みください。明日からは本部の施設と迷宮のご案内、それと業務の説明を行ったあと、軽い会食の席をご用意させていただきますので、どうかご出席ください」
「お心遣い、ありがとうございます。皆を代表してお礼申し上げます。今から明日が楽しみで仕方ありませんわ」
ユニアが目を細めながら、まるでどこかの貴族の娘みたいな仕草で言った。
私たちと共に、幼い頃からずっと神殿の中で暮らしてきたくせに、どうしてこんなに立ち振る舞いが洗練されているのだろう。仕草も一々色っぽいし、祈りの力も強いし、美人だし、それに胸も大きい……私には無いものばかり持ってて、ちょっと羨ましかった。ううんちょっとじゃない。ずっとずっと、彼女のことが羨ましかった。
「馬車の中から見たこの都市はどうでしたか? ヴェステ神殿に比べたら、さぞ騒々しかったことでしょう」
もはやカノキスの目に映っているのはユニアの姿だけだった。彼女もそれを分かっているのか、唇をチロリと舐めて微笑んだ。
「いいえ、そんなことございません。ご存知でしょうが、神殿は控えめに述べても、それはそれは退屈で、それに比べてこの街は皆活気があり、とても賑やかで、これからここで暮らしていくことを思うと、興奮でつい祈りにも熱が帯びてしまいそうですわ」
「では、あなたの祈りでこの街の雪がすべて溶けて、ニルニア川が氾濫してし舞う前に、高台に引っ越しておかなければいけませんね」
鼻の下を伸ばしたカノキスは、ユニアの大人びた顔を見て、それから胸にチラリと目をやった。
当然ユニアもその視線に気づいたのか「なんだか暑くなってきましたわ」なんて言いながら、ローブの胸元を緩めてはためかせる。本当は寒いクセに、よくやる。
カノキスがたまらず、ユニアの耳元で何かを囁こうとしたときだった。
「今回も綺麗どころの女ばっかり揃ってるじゃないか!」
勢いよく開け放たれた扉から、男が一人現れた。
それが私と彼の、出会いだった。
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