第3話
僕は母の思い付きで引っ越すことになり六、七年ぶりに地方から都会に戻ってくることとなった。僕は新天地に出たことでまずこれまでの自分を一新しようと思った。僕はここ数年の自分の態度が気に入らなかったからだ、少し調子に乗りすぎるとすぐに叩かれると思ったからだ。
そんなぼくだったが、中一のころは本当につまらなかった。毎日毎日が同じことの繰り返し、何のために生きているんだろうと本気で考えていた。だからといって死ぬことはない、それこそ一番意味のない行動だからだ。どうして僕がそこまで言えるのか、それはぼくがこの数年間どうして生きるのかをずっっっと考えてきたからだ。生きることとは人間の義務なのだ。それに逆らうことは神をしても適わない。
しかし、一番の理由はそこではない。ぼくにとって生きる理由、それはぼくを創った僕の思想を絶やさないためだ。ぼくはそれに応える義務がある。
ぼくは中二の三学期に塾に入った。そして、そこでぼくともあろう人間が恋をした。いつも塾に行くと「れんちゃーん」と屈託のない声をかけてくる彼女が恋しくなっていた。
僕はもう人を騙すことはしないと心から誓っていた。騙すという言葉は適切でないかもしれない、何故ならぼくは真実しか話していないからだ。そっれを勝手に誤解して言い訳だの嘘つきだのと喚き散らされてもぼくには知る由もない。しかし僕にはわかっていた、それは善くないことなんだと、だからぼくは人を騙すことをやめた、はずだった。
たまに出てしまう、その程度ならばいいのだ。ぼくはぼくが最も恐れていたことをしてしまった。
自分には今妻がいる。高校受験を成功させた後に告白してから付き合い、今に至る。僕はきっと過ちを犯したのだ。告白がうまくいってからも自分は彼女を愛してもいいのかと苦悶することはたくさんあった。でも、恐らく自分らは幸せというやつなんだろう。
しかし、自分は後悔はしていない、いや、することはない。自分がぼくを騙したことを。かつてぼくが僕を騙したように。自分は決して変わることはないだろう。
「知らぬが仏」という言葉には冒頭で述べた意味と似たもう一つの意味がある。それは、知らないのをいいことに責任逃れをするといった意味らしい。やはり自分は「知らぬが仏」とはいい言葉だと思う。
最後にもう一つだけ。自分が昔、母に問いかけた話を覚えているだろうか。悪魔と天使の話である。その時母はこう答えた。
「そんなのはみんな持ってるわよ」、と。
虚実 @rinrim
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