第2話

 僕の名は若井恋という。現在小学校三年生で一人っ子の三人家族。ちなみに僕の名は恋と書いてれんと読む。僕は男なのに恋なんて名前だからか小学校ではよくからかわれる。でも、僕はこの名前が好きだ。

 父は最初、蓮にしようとしていたらしい。でも母がそれじゃあつまらないと言って恋になった。まったくもって謎である。

 母は昔から変人として名高かった。突然引っ越しをしようとか言い出したり、ちょっと一週間留守にするとか言い出したり(結局三週間帰ってこなかった。)、まあとにかく変な人なのだ。父は正直仕事人間といってもいいだろう。本人曰く仕事を愛しているらしいが、それで家に帰ってくるのもとても遅いのだから困ってしまう。だから僕は最近父と会話するのは朝しかない。また父とはよく喧嘩になる、といっても殴る蹴るはされない。基本言葉の殴り合いだ。でも最終的には僕がめそめそと泣いて終結してしまう、とても悔しい。

 そんな変人両親だが、僕は心から尊敬している。母は僕の話を聞いてくれるし、父は僕らが生きていくためのお金を働いて稼いできてくれる。それにどんなに怒られてもやはり親子は親子だ、僕のことを愛していてくれるし、僕も愛している。だから僕はその期待に応えなければならない。

 突然だが、僕には今目標がある。僕の中にいるもう一人の僕と会話することだ。きっと僕が欲に負け、悪事を働かせてしまうのもこいつがいるせいなのだろう。何とかしてやっつけなければいけない。僕は色んな方法でこいつと連絡を取ろうとした。ある時は鏡に向かって話しかけた、ある時は無心になって自分に話しかけた、でも僕の中にいる僕が出てくることはなかった。どうしたら出てきてくれるのだろう、そもそも出てきてくれるってどういうことだろう。そんなことを毎日のように黙々と考えていた。

 そうこうしているうちに僕も小学校四年生となった。この一年間は僕が生きてきた中で最も短い一年だったと思う。出来事という出来事がほとんどなかった。僕も元来物静かな性格だったが、この一年でさらに磨きがかかったように思える。授業中は全く手を挙げないので三年生の通知表は積極性という項目のところだけが丸になっていてその他は全部二重丸だった。両親にはもっと褒めてもらいたかったのに、父からは授業でもっと手を挙げろと怒られる羽目になった。

 そんな中、とある日の昼休み、学校の一階の廊下を僕の中の僕とどうやったら出会えるかといつものように考えながら、ぼーっと歩いていた時に僕はたまたまその場に居合わせてしまった。初め見たときはクラスの女子二人が教室にいる、自分も仲のいい男子が教室の窓を境にして校庭側にいる、その程度の認識だった。しかし、よく見ると男子女子ともにお互いに向かって何かを投げている。そこでようやく僕は察した。僕は後これに巻き込まれる、と、早いことこの場を去らなければならない、と。僕が忍者のように右足をすーーーっと一歩後ろに下げた時だった。そのクラスの女子と目が合いこう言われてしまった。

「ちょっとれんちゃんじゃない、あの男子たち何とかしてよー。」

あーあ、言わんこっちゃない。僕は久しぶりに倦怠感を感じていた。鬱々たる感情を抱えながら僕は外にいる友達のところへ行った。「何してんの?」そう聞くと彼らはこう答えた。

「いやなんか女子たちに挑発されたからさ、恋も一緒にやらね?」

いやなんかじゃないよ、やらね?じゃないよ。この時僕は友達を心底面倒くさいと思った。


 自分はこの時この後自分の人生を左右したかもしれない行動をとった。自分は一分ほど炎天下の中涼しい校内を目の前にして突っ立っていた。汗が地面に滴ろうとすると、校内から流れ出る冷風が水滴をドライヤーの様に吹き飛ばし乾かしていく。そんな自分に突如雷が落ちた。自分はもう立ち止まることができなくなっていた。あいつはまだ教室にいたはずだ。階段にぽとぽとと汗を滴らせながら三階まで一気に駆け上がった。

 そいつはよく暴力沙汰になることで知られていた、要するに彼は蛸が茹で上がるよりも短気なのだ。こいつを先程の場所にさりげなく連れて行った。そして奴の頭に泥がクリーンヒットし、切れた。あえなく先生沙汰となり問題は無事に終結した。なんという快感、当時の自分は夏特有の滝のような雨が降りしきる中恍惚とした表情を雨雲の上の見えない青空に向けていた。

 もうれんは止まらなくなっていた。小学校残りの三年間はひたすらそんなことをしていた。無論先生にばれそうになったこともあった、しかし、小学校高学年反抗期真っ只中のれんにはそんな壁は飛び越えることもなく壊していった。父親との昔からの口論が功を奏したのか、才があったのかれんは口に関しては誰にも劣らない自信があった。実際に僕は小学校の先生に討論会の代表にも選ばれた。そして、どんどん僕は固い硬い殻の中に閉じこもっていった。

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