虚実

@rinrim

第1話

 あなたたちは、人に嘘をついたことはあるだろうか。大方の人は嘘をつくことは悪いことだ、と子供の頃から両親に言われたのではないか。しかし、嘘をついたことのない人間は一人もいないだろう。なぜなら嘘をつくことは自分を守ることにつながるからだ。

  日本には「知らぬが仏」という言葉がある。時には知らない方がいいという意味として使われる。自分がこの言葉を初めて知った時は、色々と不思議だった。何故仏、何故知らない方がいい、と。しかし、その意も次第にわかるようになっていった。

 もしも白雪姫が両腕、両足を縛り付けられた状態で魔女に捕まり、いっそのこと自分の歯で舌を噛み切り死のうとすると、魔女の血管の浮き出た腕で細い首を絞めつけられ、最期は毒りんごを無理矢理喉奥に押し込まれ、魔女の狂気に笑う顔を見ながら無念にも死んでいったなら。

 そう想像を膨らませると何も知らずに甘酸っぱく、思わず微笑むような味を目の前の非情な毒りんごに期待して、訳も分からずに死んでいった白雪姫は幸せだと思う。

 自分は昔、とても純真無垢な子供だったと思う。昔と言っても小学生の頃である。しかし、そんな自分も時には欲を出した。そんな欲を手に入れるために度々嘘をついてしまったこともあった。しかし、所詮は小学生、そんな嘘もすぐにばれてこっぴどく叱られたことを今も思い出す。無論その場では猛省する。しかし、必ず同じことを何度も繰り返す。身勝手ながらいつも、どうして繰り返してしまうんだろうと考えていた。

 しかし、小学校一二年生ぐらいのときだろうか、漫画を読んでいてこれまでの疑問に合点がいった。

 その漫画の主人公は今宿題をすべきか、遊ぶべきかという葛藤を抱えていた。そんなときその少年の頭の周りに、小さい天使と悪魔が現れ、天使は

「ダメだよ宿題をやらないと先生に怒られちゃうよ。面倒くさいものを早くかたずけてから遊んだほうが楽しいよ。」

と右耳に穏やかな声で囁く。一方、悪魔は

「宿題なんて後でやればいいじゃん。遊んでからじゃないと宿題も手につかないよ。」

と左耳に甘い声で囁いた。

 主人公君が結局どちらの道を取ったのかはもう憶えていないが、自分はこの時この場面を見てとても感心したものだ。そして自分は母親にその漫画を見せてこう言った。

「僕の中には僕が二人いるんだね。」と。

 母親が目をまん丸くして驚いていたのを自分は忘れない。


そして、自分の中にが生まれた。

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