水仙の花はどこ

りょう(kagema)

第1話

夢の中で誰かが現れたのなら、それは自分自身がその人のことを考えていたからだ、という考え方には幼い頃からどうも馴染めずにいた。だって、どうでもいい奴だって夢に出てくるし、殆ど忘れかけていた奴だって出てくる。実は頭の片隅に彼ら彼女らのことがあったのだなんて言われたところで、確かに彼ら彼女らの記憶は僕の中にあるけれどもだからと言って彼ら彼女らのことを考えていたわけでもない。夢が記憶の残滓であるとしても、そこに現れた物や人自体にそれほど深い思い入れを僕がもっているとはどうしても思えないのだ。

そういう風に思っていたある時、高校の古文の授業で、昔の日本人は夢に誰かが現れるのはその人が夢を見た人のことを強く思っているからだと考えていたという話を聞いた。僕にはこちらの説明の方が余程納得できるような気がした。

僕の夢の中には幼い頃から度々同じ少年が現れた。年の頃は12、3、髪は艶やかなブロンドで耳が隠れるぐらいの長さがあり前髪はアシンメトリーに分けられ右側は目まで垂れ下がっている。瞳は澄んだ青色、眼球を囲うその目はすらりとした切れ長で何か野心を宿しているようにも見える。服装は貴族のようで、フリルのあしらわれたシルクのシャツと真っ黒のサテンのカボチャパンツを身につけていた。

彼がいつ頃から現れるようになったのかは覚えていないが、少なくとも五歳の時にはすでに現れていた記憶がある。その時彼は何も言わず、じっと僕を見つめているだけだった。それから数年経ったぐらいから、彼は何か喋り始め僕も相槌を打ったりぐらいはするようになったのだが、目を覚ましてしまうと何を話していたのかは覚えていない。

僕はずっと日本の片田舎に住んでいて、そんな外国人の少年と会ったことなどない。もちろん、テレビなどで見たことがあったのかもしれない。しかしいずれにせよ、目を覚ましている間は彼のことについてなど全くもって考えてなどいなかったし、気にもとめていなかった。

この少年について、あれこれ考えるようになったのにはワケがあった。


うちの家は由緒正しい家柄でもないし、富豪というわけでもないのだが、僕の曽祖父にあたる人物が収集癖が高じて建ててしまったちょっとした蔵のようなものがある。蔵には頑丈そうな鍵がかけられていて、僕は一度も中に入れてもらったことがなかったのだが、僕が高校一年生の時の夏、高校生になって気が大きくなったのかちょっとした冒険心を起こしてしまって、家族が誰もいない隙を見計らい、鍵を盗み蔵の中に入った。

中は確かに埃っぽかったが、母か父が定期的に手入れをしているのか、それほど荒れた様子もなかった。

僕は試しに近くの引き出しを開けてみた。中から出てきたのは木製の棒だった。用途はすぐ分かった。アレの形をしていたからだ。その他の引き出しや箱をいくつか調べてみたところ、何種類もの張形や貞操帯、麻縄やその他拘束器具などが出てきた。よく見ると奥の方には三角木馬もある。僕が入るのを許されなかった理由はよく分かった。しかし、それ以上に、こんなものを買い集めて蔵まで建ててしまう僕の曽祖父というのは相当な阿呆らしい。

もちろん、高校生の男子である僕はこういったものに興味がないではなかったが、こんな埃っぽいもの使う気にはならないし、そもそも使う相手がいない。興が冷めてしまったし、会ったこともない曽祖父の大変よろしい趣味が分かったところで引き返してしまってもよかったのだが、せっかく苦労して入ったのだしついでに二階も見てやろうと考えた。

急な階段を登りながらまず見えたのは何もない床だった。なるほど、収集癖のために建てた蔵と聞かされていたが、実際には曽祖父のお楽しみスペースというわけだ。

しかし、階段を登り切ってみるとそこにはいくつかの木の箱が置かれていた。私は直感的に一つの箱を選んでその箱を開けた。箱の中にあの少年がいたのだ。少年は球体関節のビスクドールだった。

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水仙の花はどこ りょう(kagema) @black-night

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