見逃した花火
韮崎旭
見逃した花火
打ち上げ花火は見逃した。近所の市町村の花火大会が3日前だったことを失念していた。
線香花火は、白く赤く華やかに、消えてばら撒いて、爆ぜる。まるで躁鬱のように。時間の中で窒息するべくあがくように。……時間がないな。廃墟で自殺して身元不明遺体になった友人が、「これを終わりなんて言うのは、ばかげてますよ。人間は、存在した時点で負け。不戦敗です」なんて言っていたな。月の光に照らされていたのは、人がロクにいない漁村の浜だった。11月ではないから、死神の声に招かれたりはしないだろう。
そろそろ何もかも忘れたい頃合いだな、これで終わりとはいかないだろうがと線路上で、形を失いつつある意識を手放そうとする。睡眠薬をいやと言うほど飲んでいたので泥酔しているも同然だったのだ。
どこかで雷鳴か花火の音がしていた、ような気がする。
見逃した花火 韮崎旭 @nakaimaizumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます