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@emochin1201

第1話

 優哉にとって、平常という名の日々は、一時の蜃気楼そのものだといえるのかもしれない。不幸という魔物は、いつも、何もない逆に退屈な日々に突然に襲いかかってくるらしい。。優哉は、それを今夜、初めて心の底から実感した。そして嵐は突然訪れた。優哉のベッドに窓を突き破り。

 拳大の石が突然投げ込まれてきた。驚くよりも窓が割れる音が、あなりにも大きすぎて現実感がなかった。幸い優哉は、机に向かって受験勉強をしていたので、幸運にも大事に至らずに済んだ。

 勿論、優哉の心臓は安物の風船のように驚きで、破裂しようだった。優哉はベッドに近づいた。窓ガラスは大きな穴が空き。

 それに生えているかのようにヒビが四方八方に伸びている。下から投げられたものだ。優哉は庭を見た。すると男が一人優哉に向かって土下座している。優哉は大いに戸惑った。当たり前だ。

 夜中に受験勉強をしている真っ最中に窓ガラスを破って、拳大の石が飛びこんできて、その窓から下を見たら男がいきなり土下座をしているのだ。これで驚かない人間がどこにいるのと言うのだろう。かなりの緊迫した状況なのは間違いない。

 本来は真夜中に庭で誰に土下座されようと人がいること自体が暗くて判らないのだが、優哉の家の庭の前には、道路の水銀灯があり。普段から月明かりより遙かに明るいのだ。気づかなかったのだが、水銀灯の薄明りが射して、その男の横に女性が一人立って優哉の方を見ていたのに気づいた。

 さすがに水銀灯だけでは、その長い髪とスカートを着ているのがなんとか判別できるだけだった。土下座していた男は、優哉が窓から自分のを見ているに気づくと顔を上げた。それだけは判ったのだが、薄明かりの中誰とも優哉には分別がつかない。

「俺だ俺だよ。優哉!」

 優哉には、その声を聞いて、それが誰だか一発で判った。土下座している男は、優哉の幼稚園児時代からの親友だった功だ。親友というと聞こえはいいが、功が起こしたやっかいごとにいつも優雅が巻き込まれて。

 中学の時など、どこかの知り合いから仕入れたのか、医薬品の向精神薬の密売をやり、それがすべて優哉の差し金だったと大嘘をつき、いきなり家族団欒で優哉が、晩ご飯を食べていたときに警察官が大勢優哉の食卓になだれ込んできて、理由の名にも言わずに半ば拉致されるように、いや、あれは完全な拉致だ。

 警察署にしょっ引かれたことさえある。細々なトラブルなど数え切れない。その関係が10年以上続いている。功は、この半年の間、学校の問題児を扱う県の施設に入所していたはずだ。

 優哉にとっては、知り合ってからの、この10年以上、親友や友達なおかつただの知り合いではなく最悪のジョーカーそのものなのだ。功は当たり前のようにそれからすぐに優哉の家の玄関に行く。

 扉を開けた瞬間、優哉の鼻先に功の顔あった。功の顔を見て優哉は正直驚いた。長年の付き合いの優哉にも声だけでしか判別できない。一見、どこの誰だか判らないような顔どす黒くパンパンに晴れ上がった顔がそこにあった。

 一体、どれだけ人に殴られてり叩かれたりしたらここまで顔が変形するのだろうか...........。優哉には想像さえできない。

「悪いな優哉。こんな夜中に」

 口の中が相当切れているために発音さえまともにできない。その時、功が優哉の目の前にガムのような物を吐き出した。行儀の悪い奴だとは知ってはいたが、ここまで作法を言う物を知らない人間だとは思わなかった。

「結構、歯ってすぐに折れるもんなんだな、歯茎も歯も根性がなっとらん」

 最初、優哉は功が何を言ってるのかよく判らなかったのだが、それは功の血だらけの折れた歯だった。

「悪いけどよさー今夜だけ俺たちを泊めてくれないかな。もう今度は絶対に絶対に優哉には迷惑はかけないからさ」

 大体功の認識は根本的に間違ってる。パンパンに晴れ上がった顔で、夜中に人の部屋の窓ガラスを割ったこと自体、とんでもない迷惑なのだと優哉は、そう思った。

「俺たち? 俺たちってやっぱ一人じゃないのか?」

「ああ、もう一人、俺の彼女がいる」

 やはり薄明かりから見えたのには間違いはなかった。そういったが先に、功は玄関の外にいる功の彼女という女性の裾を強引にひっぱり、無理矢理、優哉の玄関の中に、その女性を入れた。

 二人の様子からして、その女性は、功の彼女なのであろう従順さで功に従っていた。玄関で優哉は、功の連れてきた女を見た。まだ幼さが残る顔立ちそしていて、せいぜいいっていて、中学生ぐらいの幼さの色濃く残る顔立ちをしていたが、その幼い若々しい顔に似合わず疲労困憊していた。

 街で歩いていたら人が振り返るような美形だと思うのだが、今は、その面影さえない。

「甥挨拶しろよ。俺のツレに」

 誰がお前のツレになったんだ............。

 優哉は反射的に思わず、そう逝ったと思うと、少し乱暴気味に彼女の腕を引っ張って功は優哉の目の名前に、その少女を引っ張ってききた。その功の行動には優しさの微塵も感じることができなかった。

「静です。よろしくお願いします」

 蚊の鳴くような声で彼女は優哉に自分の名前を言った。

「聞こえねーだろうが。もっとはっきりでかい声で喋れよ!」

 まだ幼い少女に威圧的に振る舞う功。本来なら彼女に気の毒になるはずなのに、パンパンに顔が腫れ上がって、誰だか識別不能の男が偉そうに少女に指図する不思議なシチュエーションに思わず不謹慎だが、優哉は笑いそうになった。 

 

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