第2話

 文章のセンテンス、つまりは一文の長さだが、これは長いでも短いでも構わないのはすでに体感で解かっていて、ただしちゃんと扱いきれるものでなくては長さがどうのというコダワリなど二の次だ。


 文章を捌ききれているかという問題は、単純に、読めて、文意が伝わっているなら良いという程度の話なんかじゃない。込み入ったところをグダグダ考えても仕方ないけれど、伝わるということそのものがそんなに簡単な話ではなかったのだ。


 文章でより詳細に、真に迫ってこと細かに描写しようとするほどに、高い能力が必要となり、反比例して文章は書く難しさを増していく。細密画のような世界に成りおおせて、非常に正確な計算が単語の一つ助詞の一つにまで影響を及ぼし始める。


 こうして今書いているこの文章そのものが、ひどく揺らいでいて枝葉末梢のレベルではまったくお粗末な出来栄えであり、体系的な組織化すら為されてはいないといった有様だ。要するに背伸びをして書いているようなものだ。


 私はお金が欲しかった。それは確実だ、バイトか副業くらいの意味合いのちょっとした稼ぎがあればいいなと考えて、以前から技能的に平均一般よりは出来ると自信のあった文章というものに目を付け、これが金になるならいいと思うに至ったのだ。


 結果的にそれはどこまでも甘い夢であったらしく、突き詰めるほどにまったく足りない文章技能という泥沼の深みを思い知るばかりなのだが。


 そう、金を稼げるほどの技術としての文章力とは、非常な高みに存在して私程度の力量ではまったく不足していたのだ。現に、ほんの少しセンテンスを無理やりに引き伸ばしてみれば、制御不能に陥る程度には扱いきれていない。


 ブレている、揺らいでいる、微細なレベルでの統御が出来ていない不安定さが文章に滲んでいることは読み返せば自身で解かる。センテンスを冗長ほどの長さに固定し、出来る限り語彙の重なりを避けようと努力した結果だ。


 私にはまだその二つすらが正確には扱えないのだ。


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わなび 柿木まめ太 @greatmanta

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