わなび

柿木まめ太

第1話

 小説家になりたいと思ったキッカケは、金が欲しいという単純明快なものだった。いや、それは正確じゃない、金が欲しいなら手っ取り早くバイトでも探せばいいだけの話なのだから、元はそんなに単純な話ではなかったはずだ。


 他に出来そうな仕事は見つからないと勝手に諦めていたのだし、もし才能があったらどこぞの編集者なりが掘り起こしてくれるのではないか、などといった甘くて薄ボンヤリで夢物語なところも確かに目論んでいた。


 もし、自分に才能があるのなら。モノは違えど誰もがそういう考えを頭に置かないことなどなかっただろうし、それでいてデキるということの実際がどういうことかは、あれこれの検索をしてみても解からないのだし、ピンキリでバラバラな意見が数限りなくヒットするばかりで、結局のところそういう力のあるなしは、芽が出てみないことには判別しようもないものだ、などという妙な屁理屈に逃げ込んで、ようするに、夢のような話で誤魔化して日々を無為に費やしてきた。


 我々、わなびと言われるある種の人材たちが。いや、ここではあえて我々と書いてしまうわけだが、わなびと自他共に銘打たれてしまうような自己の存在が、時に重苦しい圧迫感をもって、我と我が人生を棒に振って投げ出すような愚かさを痛感しながらも、皆がそろいも揃って光当たる場所をなぜ諦めきれないのかと思い悩んだりもする。


 何ゆえにプロなど目指すのかと、それが限りなく無粋で不純な動機に辿り着かざるをえないことを承知の上での自問自答で、見もフタもない答えをただ引き伸ばすだけのその無駄さ加減に苛まれたりしながらも、それでも砂糖菓子のサクセスストーリーを望んでしまう。


 成功に必要な条件はネットの海にばら撒かれたパズルのピースのみでは揃わず、それらをどれほど掻き集めても肝心の部分はすっぽ抜けているのであり、不明瞭で不完全な絵図が完成したとしても、肝心要の項目を推測することさえ不可能で本当にその指し示す先が役立つものかも信奉しきれたものではない。


 ワールドが、欲しいのだ。その著作者の作りうる、その著作者だけにしか作りえない、読者が真に欲している著作者の世界観。作品の根底に眠るものなのか、文体の流れにたゆたうものなのか、物語の影に色濃く滲んでいるのかは知らないが。



 試しに、主語を抜いてみた。(きっと違う)

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