第三十一話:襲撃

 その決闘は、王の勝利でした。......確かに王は勝ちましたが、然しこの一騎討ちは王に、ましてや龍仔の騎士にさえも、何も齎しませんでした。

 むしろお互いから、お互いという無二の親友を奪っただけでしかなかったのです。

 それは初めから自明の結末で、必然だったとも、言えましょう。

 二人は運命に因って出会い、そしてまた運命に依って引き裂かれたのかもしれません。

『真に認めた主の“運命”の時まで、その主を不死身にする』と伝えられる王家の剣、エクスカリバーの加護も、真に認められたはずの騎士王アーサーには見られなかったと云います​────。




 劇を見終わった後、テントから茜色の空の下へぞろぞろと移動し始めたほかの観客達について行きながら、感想なんかを話し合った。


「はぁー面白かった! ね、面白かったわよね!」


「あぁ、そうだね。とても面白かった......。」


「......どうしたの?」


「ううん、ちょっと余韻に浸ってたんだよ。

 それより、話のおおまかな粗筋は聞いてたのにやっぱり動きがあるとぜんぜん違うね!」


「でしょう?! ただ演じてるだけじゃなくて“竜樹”まで使って凝った演出してるのよ!! 凄いでしょう!?」


 竜樹......須佐之國でいう機械工学技術の代わりに発達したドラグエール独特の技術で、ほぼ全ての国民が竜の血を継くこの国だからこその産物。

 確たる異能や強い竜特性を発現させる程の濃さはなくとも、竜の血がその身に流れてさえいれば、その身には竜力​────昔須佐之國で読んだ創作で言うところの魔力や霊力といったモノ​────が少なからず蓄えられ、訓練で適性を得ることができる。

 その竜力を用いて人の望む現象を引き起こす道具、それの据え置き運用の大型なものが“竜樹”で、持ち運べる小型のものが“竜珠”だ。

 この場合は舞台の照明や音響、殺陣の演出なんかの為に使われていたな。


「あぁ、戦闘の場面なんかは殺陣も派手で見ていて楽しかったし、なにより騎士達の魔剣の再現には相当力が入ってるんだろうなって......本物は見たこともないけど分かったよ。」


「そうなのよ! “見かけだけは完全再現”って謳い文句でウリにしてるだけあって、そのクオリティはかなりのものだ、って今のエクスカリバーの主である国王様もお認めになったんだから!」


「国王様ご本人のお墨付きだなんて、すごいね。」


「でしょう? はぁ〜、何回見ても素敵だわ......。」


 そう言ったきり、またぶり返して来たらしい余韻に再び浸かり始めたレヴィ。

 そんな彼女と逸れないように辺りに気を配っていたそのとき、不審な気配を感じた。


「......レヴィ、レヴィ。......俺から離れるなよ」


「......え? どうしたの?」


「勘違いならいいんだが......とにかく、こっちだ」


 多くの人が広場から続く大通りへと流れて行くが、俺は逸れないようにレヴィの手を引いて、その雑踏を抜け出して少し狭い道を選んだ。


「......やっぱり」


「ね、ねぇ、どうしたの?」


「広場からずっと、尾けられているようだ」


 実際、自然を装いながらも誰かを探すような素振りを誤魔化しきれていないような、怪しい男達が五、六人広場にいて、こちらを認めたらしきすぐ後に動き始めた。

 明らかに、ただレヴィの見た目に釣られただけの人攫いなんかじゃないだろう。


「街中でヘンなことはしないと思うが......、さて。

 ......おい、お前達。何か用か?」


 取り敢えず、奴らを袋小路になっている路地の暗がりまで誘き出して声を掛けた。


「チッ、おめェに用ってワケじゃねぇよ、勘のいい坊主。

 俺らの用がアンのはそっちの嬢ちゃんだ、とっとと消えな」


 ......だろうと思ったよ。

 姿を現したのは黒ずくめのコートの男。

 その返事を聞くや否や、俺は飛び出した。


「嬢ちゃん、ドラゴフレイぶッ!?」


「えっ?ホムラく、ん......?」


 一瞬“尾”を出して壁を跳ねるように近付いて​────まずは一人。

 取り敢えずの所、声を掛けて出て来たのはコイツだけだが......まだいるな。


「なんっ!?」「うぇ、ぶっ?!」


 さらに近かった順に二人。物陰で隙だらけに固まっていたのを殴打で落とす。

 狭い路地に追い詰めたつもりかもしれないが......やはりコイツら、大して強くないぞ?


「チッ、バレてる!」「ビビんな!全員で行くぞ!!」


 どこから湧いたのか、途中から合流したのか。とにかく合計で七人もの真っ黒な装いの男達が建物の陰から飛び掛ってきた。が......、


『ぉおおお!!』


「......アホか。」


 何故こんな狭いところに七人もの人数で押し掛けて、尚且つ一斉に突っ込んで来るだろうか......。


「ふッ!」


 ドラゴニティを現したとて、気休めにもならない。

 男達の目前で急停止、その場で急旋回したオレは早速、バルクさん直伝のドラゴアーツを披露してみせることにした。


の型、翻尾こぼしびッ!」


 強く体に巻き付けた尾を一瞬だけ振り抜いて、何故か七人固まって飛び掛ってきたのを纏めて弾き返した。


『グぇっ!?』


 暫定間抜けな人攫い未遂達は皆、路地裏の石畳に叩き付けられて伸びてしまったようだ。


「ホムラくん......この人たち、何?」


「さぁ? 取り敢えず大人を呼んで突き出そうか。

 ......レヴィ、大丈夫だった?」


「うん、ありがとうホムラくん!」

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天地断絶のディスガイア 寄道 夜道 @okurineko

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