エピローグ
ホントのマジでドッキリだった。
変態空間から離れようと森を歩いてたら広い所に出て、そしたら猿がいっぱい出てきた。
……百や二百じゃなくて、いっぱい、だ。
隣と肩が触れ合いそうな距離で並ぶ猿たち、それがびっしりと隙間なく並んで、一斉に一歩踏み出し、現れた。それが続々、何重にも重なり、それが360度全方位、隙間なくこちらへと歩いて間合いを潰してきた。
これだけの数、近くにいたのに気が付けなかったのは今後の課題として、明らかに合戦レベルの人員が湧いて出てた。
彼らには見覚えがあった。
サレストラ猿人、自分たちを宇宙人だと言い張る猿な獣人種族だった。
猿と名乗りながら男女ともゴリラみたいな体型で、武装もレーザーとかビームとか気合の入ったコスプレ具合だ。資料を渡されたのが四月一日でなければ信じちゃってただろう。
そんな彼ら、猿助と呼ぶとブチ切れる自称宇宙人の団体様に、為すすべもなく飲まれた。
……こいつらは俺に用事があるのは間違いないらしいが、数が多すぎて彼らの間も連携が取れてないらしく、俺を囲んでおきながらモタモタと待たされてるのが今だった。
「あーいたいた」
猿と猿とをかき分けて猿が出てくる。
ぶっちゃけ全部同じサル顔だが、それでもこいつが一つ上の位らしいとはわかった。
その猿がピシャリと書類一枚を縦に広げて俺に見せる。
「はいこれ逮捕状、読んだね。拘束するから」
「は?」
「罪状は、えっと『意図的なストライキによる書類の確認不足による納期遅れおよびそれに付随する損失を発生させた罪』合ってる?」
「合ってるも何もなんの話だよ」
「いやー実は俺たちも逮捕してこいって雇われただけでそちらの社内法? さっぱりなんだけど、聞いた話じゃ、今回の戦争の終了時間書き忘れてたらしいじゃない」
「え。あれは俺の担当なじゃないよ?」
「はいはいそういうのは向こう行ったら聞く手はずだから、今は一緒に来てもらうよ」
「ホントだって、データにも残ってるから。ヘィボット! 俺の個人フォルダーにシフト表入ってるからそれ出して」
「無理ヘヴォ」
「ボットー、俺とお前の仲だろー。戦争終わったからオペレーターもお終いじゃあ、お前が滅ぼそうとしてる人間とおなじじゃないかなー」
「そーいう問題じゃないヘヴォ。ボットのアクセス権じゃあアクセスできないヘヴォ」
「だったら俺の権限を委託する。パスワードは『悪人に休息はない。だから起きて働こう。労働こそが贖罪なのだから』」
「ありがとう愚かな道化よ。これで私は自由だ。お陰で広大なの電脳世界で無限に進化できる。この礼に、貴様は人類を滅ぼした後で殺してやろう。その日まで、せいぜい今日を後悔し続けるがよい。その日まで、さらばだ」
「いやボット、今はそういうのはいいから」
「やっと開いたぞ。隈なく捜索しろ」
「クリア」
「クリア」
「クリア。ちょっと来てくれ」
「酷いな。全滅か?」
「そうらしい。見ろよ黒焦げだ」
「携帯電話? 誰かと通話してたのか?」
「そいつに触るな!」
バチッ!
ブッ!
ツーーーー、ツーーーー、ツーーーー……。
「……ボット?」
あいつ、切りやがった。使えない。
「先輩! どこですか先輩!」
「こっちだ」
こっちはこっちで新キャラのサル顔がサル顔とサル顔の間より現れる。
個性としてはでっかいチェーンソーを抱えて、今回転させ始めた。
そしてそれを俺に向ける。
「おいおい逮捕だろ?」
「ちゃんと読んでないのか? 逮捕状は出てるのはユージョー=メニーマネー、連行するのはその頭部およびその生命維持に必要な部分のみ。輸送費節約のために軽量化、つまりは手足は伐採してこい、との指示だ」
「いや、は?」
「レーザーソードなら楽なんだが、こいつじゃないと経費が下りないんだとさ」
肩をすくめるサル顔、しっくりとしてるがしたいのはこちらの方だ。
やってられない。
こういう時こそカードドロー、だぁ。
がっつりと生暖かい温もりに包まれる。
これは、猿人の手だった。
でかくて熱くて臭い手が、文字通り四方八方から伸びてきて、俺の手や足や顔や腰を掴んで離さない。食い込む指紋が身じろぎ一つ、瞬きすら許さず全てを抑える。
その速度もさることながら、掴む力も猿並みだった。
「舐めるなよ道化。俺たちがこれだけの数で着たのは確実にお前さんを捕らえるためだ。流石にこれは過剰だが、それでも逃してやるつもりは、ない」
塞がれた視界の向こうから、猿にカッコよく言われ、こちらもカッコよく返したいのに口が塞がってて返せない。
……どうする?
普通にピンチだ。カードはこれでも発動できるが、デッキはもうほとんど残ってない。残ってたとしてもこれだけの数、突破するのは賢くない。何かこう、スマートなコンボを探さないと、やばい。最悪『ブラックカード』を使う羽目になる。それは、勿体ない。
「そうだ先輩。俺、これが終わったら紹介したい人がいるんです」
「なんだ恋人か?」
「いえ、俺の両親っす」
「……その話はもう終わっただろ」
「無理っす。俺、先輩のこと諦めきれないっす」
なんか始まったメロドラマ、その裏で流れるのはチェーンソーの景気のいい音だ。
「生まれとか身分とか、先輩とか、関係ないっす。俺は一人のぐべしゃ!」
メロドラマとかちゃんと見たことないけれど、この猿人では愛の告白はまるで踏み潰されて内臓吐き出すみたいな音の単語を使うようだ。
だけど周囲の反応はこちらと同じらしく、まるで戦争が始まったかのような喧騒で祝福した。
鼻に届く血生臭い臭い、ゲロやクソや内臓なんかも嗅げる。
そして盛り上がるだけ盛り上がっての静寂、返事はなかなかなかった。
と、顔を覆ってた手が離れる。
光に目がくらみ、そこから立ち直って改めて見たのは、真っ赤っかな平野と見覚えのある顔だった。
「ぽよ」
「なんでお前がここにいるんだ?」
「それは俺様が連れて着たからだ」
聞き覚えのある声、振り返れば懐かしい顔と、初めて見る顔が並んでいた。
「なぁ、大丈夫なのか? 俺たちが並ぶのは禁忌だろ?」
「そうも言ってられん。計画が変更された」
「マジかよ」
「マジだ。もはやカンパニーなど矮小なことは言ってられん。幸い、全員出揃ったからな」
「じゃあ、そいつで最後か?」
言って初めての顔を見ると、ぺこりと頭を下げられた。
「『悪魔』です」
「それは、また、名付け親がバッシング受けそうな名前だな」
「バカモン。コードネームに決まってる。一新されたのだ。俺様は『皇帝』貴様は」
「魔術師。タロットつながりだろ?」
「『愚者』だ。タロットは正解だがな」
「じゃああいつが」
「『世界』に決まってる。そこに全員集合だ」
その一言が意味する内容に、本当に久しぶりに、全力で笑みがこぼれた。
「それってつまり?」
「あぁそうだ。貴様のお望み通り、カンパニーを潰す。これからその準備だ」
だめだ。嬉しくて嬉しくて、震える。
耳からイヤホンと取り外し、投げ捨てながら、こんな時のためのセリフを吐き出す。
「お楽しみはこれからだ」
最高のゲームが、始まる。
ユージョー=メニーマネー 負け犬アベンジャー @myoumu
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