君がいた僕の物語
@amaki_sigure0608
第1話 分岐点
小さなアパートの部屋の一室に大量の本が乱雑に置かれている。そして、その中で僕はポツンと右手に睡眠薬を持って、壁にもたれかかっている。
「無職の20歳で2年前に彼女を亡くしてから家族にも見捨てられた男。死ぬのには
もってこいな条件だな…あー暑い」
それもそのはずエアコンはおろか扇風機も稼働していない。僕は死に場所を探している。冷房システムを完全にオフにして熱中症になって死ぬという手段を得ようとしたが、なかなか死ねない。
これで二回目だ。だから次は市販の睡眠薬を飲んで楽に死のうと考えている。
「カラカラ…」
瓶からこぼれるように出てくる丸く小さな薬を手のひらで転がす。
「1、2,3,4,5,6,7,8…か…一個減らそうかな」
なんとなく1粒飲む量を減らし、ぼんやりとそれらをみつめる。
飲む。そして死ぬ。三度目の正直というけどその言葉は本当なのか。
まあどっちにしても死ねばわかんないな。
「うぐっ…」
喉に少し詰まったが飲めた。あとは寝るだけだ。死ぬ前ぐらいは冷房器具をつけて
おこうか。この世界は嫌いではなかったけど好きでもなかったな。
さようなら。今度は死ねるといいな…
「ぐっ…いっつ…」
頭を針で突き刺されたような痛みが走り、体が重い。今が何時か何日かもわからないが生きている。どうやら三度目の正直という言葉は嘘のようだ。
「くそ…あのとき一錠減らしたから…」
わかっていた。あのときはなんとなくと言っていたけど違う。僕は死ぬのが怖かったんだ。ただの哀れな臆病者なんだ。
「また生きてしまった。生きる意味もない、行きたいとも思ってないのに生きてしまった」
外では蝉が自分の僅かな命を惜しむように必死に鳴き続けている。
「僕は蝉以下だな…」
僕がこんな人間になってしまい、自殺願望を抱いているのには理由がある。
二年前。
つまり僕が高校三年生だった頃、僕は、人を殺した。といっても直接殴ったとか指示したとかではない。ただ死んでしまったのだ。僕が引き止めなかったから。
何者かに殺されてしまったのだ…
「ん…」
あれからまた居眠りをしてだいたい二時間後くらいだろうか。部屋の中には頻繁にインターホンが鳴り響いている。
「郵便か?いやでもそれならこの間きたばっかりだし…ああ頭痛い…」
重い体を無理矢理起こし、玄関へと向かう。
この日から、僕は知ることになる。どんなに絶望的で退屈な世界にもきっと奇跡は起きるのだと。運命に抗うことが出来るのだと。
「あ、突然お邪魔してすみません!私…」
長めの白いスカートに、白いシャツを着て上にカーディガンを羽織った姿にはどこか気品があり、夏があまり似合わなそうな可愛らしい少女は言った。
「わ、私!あなたのファンです!」
彼女は言った。世界は意外と美しい、と。
君がいた僕の物語 @amaki_sigure0608
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