第二十三話 共闘(2/2)
「例えばだが、ミヤナック家では、”弓”と”赤”のスキルの大家を目指さないか?」
ハーコムレイが目を見開いた。
「王家は、”白”か?アデレードに適正があって、神殿で訓練をしている。転移は、難しいけど、”白”として癒やしを与えるくらいにはなっていると思う」
ローザスがテーブルに手をついて体を乗り出す。
「他にも、神殿に友好的な貴族家に”パシリカ”の儀式が行える道具を貸し出す」
ハーコムレイとローザスは、お互いの顔を見た。
ローザスが、テーブルの上に置いてあったカップを取り上げるが、中身がない。部屋から離れていたメイドを呼んで、新しいカップと飲み物を持ってくるように指示を出している。
俺とハーコムレイのカップからも湯気が消えている。
4人のメイドがカップを持って部屋に入ってきた。新しいお茶請けも持ってきてくれた。
紅茶は、俺たちから見える場所で入れるのがマナーのようだ。ローザスだけではなく、ハーコムレイも毒殺を心配しなければならない身分だ。俺は毒は(多分)効かないから気にしない。
「これは?」
ハーコムレイの指示ではないようだ。
ローザスと同席していることや、ローザスが手を伸ばしそうな物だったのか?
食べ物には警戒心が働くのだろう。
「はい。一度外に出かけていたナナ様たちが、リン様に食べてほししいと持ってきた者です。毒の確認はいたしました」
「そうか、ありがとう」
メイドがしっかりと説明したことで、ハーコムレイがお茶請けを受け取った。
新しいカップに紅茶が継がれていく、最後に残った紅茶をハーコムレイに説明をしたメイドが小皿に少しだけ入れて、飲み込んだ。
4人が頭を下げてから部屋を出ていく、扉が閉められたことを確認して、ローザスがカップを持ち上げて口をつける。
「リン=フリークス。わが家や王家で、スキルを好きに与えるようになるのか?」
「正確には・・・。違う。スキルの種を埋め込む・・・。あぁ今、教会が行っているニセモノのパシリカが行えるようにはなると思うぞ?」
「リン君。それがどんな・・・。いや、わかって言っていると思うけど、君の・・・。神殿のメリットは?」
「神殿を隠すのが目的だな。すぐに、神殿に辿り着けるとは思うけど、王家やミヤナック家がパシリカを行いだせば、教会は対応を考える必要がでてくる。神殿が大本だとわかっても、すぐに手を出せる状態ではない。違うか?」
ローザスは、俺の言葉で納得ができないようだが、ハーコムレイはすこしだけ考えてから口を開いた。
「リン=フリークスの求める物はなんだ?先ほどの話は、メリットではない。実際に、パシリカを渡さなくても、何もしなければ、神殿の存在は秘匿できる」
「そうだな。でも、俺は神殿を公開したい。王家やミヤナック家に利権の一部を渡してでも、アゾレム家をつぶしたい。母を、サビニ=フリークスを追い込んだクズを始末したい。父を・・・。ニノサを殺した連中を破滅させたい」
「・・・。ハーレイ。王家は、僕の権限で、神殿の主からの要請を受けるつもりだ」
「ローザス!」
「わかっているだろう?王家にとってメリットしかない。神殿の利便性を考えればメリットが大きい。宰相派閥の連中が仕切っているマガラ渓谷を通過できるだけでも大きなメリットだ。そして、僕の結婚だけではなく、アデレードの身柄まで要求してくる腐った教会を排除できる可能性がある。王家から出ていくものは・・・」
「それが問題だと言っている!ローザス。わかっているのだろう?国を割るぞ!」
「すでに割れている。ハーレイ。違うか?もう修復なんてできない。僕たちがなんとか踏ん張っている状態だ。いつまで持つのか・・・。少しでもかじ取りを間違えれば、宰相たちの暴走は止まらない。教会の常識派が居なくなってしまう。そうなってからでは、遅い。そして、残念なことに、すでに手遅れな状態だ。父は、何も手を打たない。父は、もうなにもしないだろう。もう終わってしまっている」
ローザスは、言い切ってから、湯気が出なくなってしまっているカップを見ている。
ハーコムレイは、何かを言おうと立ち上がったが、ローザスの言葉を聞いて、座りなおした。俺を見るのではなく、天井を見ている。
「リン君。父は、国王はもう何もしない」
「え?」
「サビナーニ殿が王宮から逃げ出した時に、心を壊してしまった」
「え?ん?なぜ?」
「”なぜ”という質問は、僕が答えられる言葉を持ち合わせていない。リン君、不思議に思わないかい?国王は、寵姫を持たないでいる。後継者も、僕とアデレードだけだ」
「ん?アデレードは、第三皇女だよな?」
「そうだね。形だけのアデレードには姉がいることになっている。父とも母とも、もちろん僕とも血のつながりはない」
「え?」
「教会の連中が、”神託”と言って・・・。国王には、それに逆らう意思はなかった。でも、母はあきらめないで、アデレードを産んだ」
「ちょっと待ってくれ、俺にそんな話をしても・・・」
「ふふふ」
「・・・」
「アデレードが産まれたことで国王は”自分の役割は終わり”だと宣言をした。そして、宰相に全てを任せてしまった。それでも、最高権力者として権限だけは渡していなかった。国王である父は死んでしまった。しかし、父として俺に残してくれるものだけは守りたかったようだ。国王としても、父としても、人としては母が支えているからなんとか踏みとどまっている。毎日・・・。庭に植えているバラの手入れだけが生きがいの人になってしまっている」
ローザスは、カップに向って独白するように呟いている。俺に説明しているのではない。本当に”独白”なのだろう。自分でも何を言っているのかわかっていないのだろう。
今までハーコムレイにしか打ち明けていない内容なのかもしれない。
ローザスの”独白”を聞いて、いろいろな事がつながった。
不思議に思っていたことが・・・。最後のピースが与えられた感じだ。
ローザスが王太子なのに権限が著しく少ない。王都に居た時間は少ないが、それでも不自然なくらいに国王の話は聞かなかった。国王だけではない。王族の話を聞くこともなかった。
そしてアゾレムが”男爵家”なのに権力を握っているのが不思議だった。
他にも、教会の力がもともと大きかったことはわかるが、王家が拒絶すれば引かざるを得ない。形だけだとは思うが、王家が譲歩している。遠慮しているといってもいいくらいだ。
ローザスは、何かを考えている。
そして・・・。
カップに残っていた飲み物を一気に流し込んで、勢いよくカップをソーサーに戻す。
「ハーレイ。これはチャンスだ。違うか?」
「・・・。ローザス・・・。リン=フリークス。ミヤナック家の最終決定は、父がするが・・・。貴殿の提案に、ミヤナック家も乗ろうと思う」
「ありがとう。神殿からは、アデレードはダメだろうから、ルアリーナとサリーカとフェナサリムが説明を行う。ミヤナック家を訪ねればいいか?」
二人を見るが、ハーコムレイは渋い表情をしている。
ルアリーナは、ローザスの婚約者だ。ローザスが会いに行くのには問題はないだろう?
「リン=フリークス。わが家への配慮で、ルナの名前を出してくれたとおもうが、教会の連中がおとなしくなるまで、アデレード殿下と一緒にルナも神殿で匿ってほしい」
「・・・。わかった。教会関係か?」
「そうだ。命までは狙われていないと思っていたが、最近の教会のやり方を考えると・・・」
「わかった。ローザスとハーコムレイが神殿に来るのは難しいよな?」
二人はお互いを見てから、”無理”だと口にした。
チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間 北きつね @mnabe0709
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます