十一月十八日

三上みかみ春海はるみ


いつもの業務連絡を、今日は砕けて書いてみることにする。

お前のお得意な手紙を真似てみようと思うのだ。


まず、例の手紙は同封してある。

お前が何度も返してほしいと訴えていたことはわかっていたが、事件の重要な証拠品ということもあり、上層部からの許可がなかなか下りなかった。

時間のかかったことをまずお詫びしたい。

それにしても、こんなものが本当に軍部の決定に左右するとは、初めに俺が検閲したときには思いもよらなかった。

おかげでU基地は今も無事、健在だ。おかげで俺も、お前も死なずに済んだのかもしれない。


あの仙田和高は、どんな様子だろうか。

今更顔向けできる立場でないことは重々承知している。

お前に介護役を押し付けてしまったことも、そのせいでお前から自由を奪ってしまったことも、わかっている。

正当化するわけにもいかない。そんなことをしたら、今度こそ仙田に殺されてしまうだろう。

あいつはたとえ上巻だろうと容赦ようしゃしない変わり者だったからな。


あれからもう一年になる。俺の罪を、仙田もまだ許してはいないだろう。

ふがいない、部下の身に危険が迫っていることにも気づけなかった間抜けな上官に、何が言えるだろうか。

今も無事に生きているようであれば、それを波留さんに伝えたいと思う。

それとも、春海自身が伝えるか?

俺みたいな者が形式を重視して前に出るよりは、多少なり接点のあるお前の方の出る方が、向こうも喜ぶのかもしれないな。


また何かあれば、気兼ねなく声を掛けてくれ。

仙田への償い、そしてお前への償いは、まだ終わっていないだろう。

今後とも、よろしく頼む。


二〇××年十一月十八日 植村うえむら宗次そうじ


追伸 どうにも手紙は湿っぽくなって好かない。慣れないことをするものじゃないな。

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