八月十七日

門井波南様へ


取り急ぎ、ここで書けるだけのことを書く。


防衛拠点が変わり、近いうちに北方にあるU地域へ拠点を移すことになった。。

U地域はあまり目立った場所ではないが、防衛線構築に向けての準備が進めらている。

そのための助力として期待されているのだろう。


ぼかしているとはいえ、赴任ふにん先についての手紙を書くなどと、最初は検閲官に突っぱねられていたのだが、波南さんのお父さんの名前を出したらようやく通ることができた。

すでに軍部を辞し、隠遁されているとはいえ、お父さんの信頼はいまだ厚いらしいね。

おかげでこの手紙も、国軍の者から直々に届けることができることになった。

このような待遇は、あまり公にはしないほうがいいと釘を刺されたが。


ところで、君のお父さんについて、奇妙なうわさを聞いた。

お父さんの隠遁の理由が、家族のご不幸だという噂だ。

波南さんの手紙では、たぶん一度もこの件については触れられていなかった。

口にできない事情があったのだろうと推察する。

あるいは、もう私が知っていると思われたのだろうか。

だとしたら、確認が遅くなったことを恥ずかしく思う。


もしも可能であれば今度どこかで落ち合うことができないだろうか。

急な異動とはいえ、有事ゆうじではない。民間人と会うくらいの自由はある。

今のうちに、会おう。この機会を逃したら、落ち合うのも難しくなるかもしれない。


噂に流されるのもどうかと思うが、最近はきな臭い話も多い。

僕の勘は結構当たるんだ。


よろしくお願いする。


二〇××年 八月十七日 仙田和高

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