七月九日

仙田和高様へ


どうやら手紙を通して、気が付かないうちに仙田様を苦しめてしまっていたようですね。

ただ、仙田様が苦労されるのも無理ないかなと思うのです。

というのも、以前の私はそれほど人が良くありませんでした。

いえ、何も悪人だったとか、実は恨み言を繰り返していたとか、そういうわけではないのです。

ただ、よく周りが見えていなかったと思うのです。


私は自然のものを見ているのが好きです。

この自然とは、星でもあり、海や山、森、空……人の力によらず、うねるもののことです。

この世の中の一部として、自立した存在。それらを前にして、人間のいかにちっぽけなことか。

自分もまた、ちっぽけな存在。そう認識することが、というよりも自分をほとんど意識しなくなるようなことが、私にはとても心地よく感じられたのです。


逆に、人に囲まれると、いつも息苦しさを感じてしまっていました。

たとえば街や、駅の雑踏ざっとうの中では、いつもどことなくまぎれていると嫌気が差すのです。

人のいない場所に逃れようとして、小さいころはよく迷子になって、家族に迷惑をかけていました。

私は人が苦手でした。それはほとんど、本能のようなものだったと思います。

同級生たちのことも、同じように、ほとんど苦手で、同性であろうとも、なかなか打ち解けられずにいました。

仙田さんの言う、純粋な時期。私にとって、それは決して明るいものではありませんでした。


その中で、仙田さんとはお話しすることができました。星という、お互いに好きなものがあったからだと思います。

自分で言うのも変なのですが(これもまた仙田さんと同じですね)、仙田さんと話すことは私にとって特別なものだったと思います。

自分の仲間を見つけられたような、安心感があったからではないでしょうか。

一人で生きていきたいという気持ちと、一人でいることの寂しさが、私の内側で混在していたのでしょう。


それがいいことだったのか、私にはわかりません。

ただ、そのおかげで仙田さんと今もこうして手紙を交し合えている。

それはともかくも、不思議なごえんだと思います。


そういえば、仙田さんは、K公園での天体観測を覚えておりますでしょうか。

町内会の企画した天体観測ショーがあり、私たちは学校の同級生を交え、家族同伴で参加いたしました。

機材はすべて、町内会の支給でしたし、所は事前に決められた場所でした。予定通りの星を見て、予定通りに帰りました。

私はその天体観測が不満でした。人が多すぎて、うるさくて、かなわなかったのです。

私はもっと少人数での天体観測がしたいと思い、仙田さんと例の星を見る約束をしたのです。


このようなわけですので、約束について詳しいことはまだ何も決まっておりません。

もしも今度、仙田さんが本土に戻ることになりましたら、そのときには一緒にやりましょう。

機材の準備はこちらで揃えますから。


お話がつい長くなってしまいました。

私の手紙も、決して整ったものではありません。

むしろ、どうでもいいようなことも多分に含まれてしまっています。

書き直すこともできる。でも、せっかくだし、このまま送ります。

確かに乱れてはしまいますが、このような不真面目さを選択ができるのも、手紙のいいところかなと思うのです。


ところで、仙田さん。もしも覚えているのなら、教えていただきたいことがあります。

小学生のときの私を、どう思っていましたか。

率直そっちょくに、気になるのです。どうして私などのような者の誘いを受けて約束をしてくださったのか。

親しく接してくださった理由がもしもあるようでしたら、お聞きしたいと思うのです。

もちろん覚えていたら、ですが。

どれほど忌憚きたんない言葉でも私は構いません。

長い時間が経って、私もまた、私のことを忘れている。

せっかくこうしてまたつながりができたのだから、それを思い出したいのです。


それでは、また。


二〇××年 七月九日 門井波南

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