六月二十六日
門井波南様へ
遅くなったなんてとんでもないですよ。
私が軍に所属しているため、どうにしても郵便物には
こうして手紙が無事届くだけでもありがたいことなのです。
そのようなことを
それに、後でも書くと思うのですが、私はこの手紙を受け取ってから、なかなか返事を書けずにいます。
検閲
もしも書いてしまったら上官に即座にばれて、大目玉を食らってしまいます。
島嶼地域とのみ書かれている事情は、察していただければ幸いです。
ただ、地球の裏側というわけではないので、割かし似ている星を見ていると思います。
今の時期でしたら、ちょうど夏の大三角が見やすい時期になってきました。
七夕の
夜空に浮かぶ彼らの形がくっきりしてくると、私も胸が騒ぎます。暇すぎるだろうと突っ込まれそうですが。
さて、おっしゃるとおり、私たちが会っていたのはごく短い間でした。
私はY市を長く離れ、
とりわけ小学生時分の記憶は、自分がまだ世間知らずだったということもありまして、
自分で言うのもおかしいのですが、純粋だった頃、とでも言うのでしょうか。(やはりなんだか気恥ずかしいですね)
波南さんのことも、そのような純粋だった頃の記憶として、先だっての手紙を受け取った瞬間に多くのことを思い出したのです。
しかし、時間が経ちすぎているというのは困ったことでもあります。
ここに書くべきことが、なかなか思い浮かばないのです。
せっかく手紙をいただいても、ろくなことが言えないなんて、悲しいことです。手紙ひとつでもただではないのに。
軍の訓練模様など、書こうと思えばいくらでも書けるのですが、軍人でもない波南さんにはつまらないでしょうし、何より機密事項です。
そのため思い出話のひとつでもできればよいのですが、小学校の頃となると、思い出したといいつつ、それはやっぱりぼんやりした
情けないことです。約束を取り交わしたのですが、それも実はあいまいなのです。
私たちは、星はどこで見に行くとか、そのようなことはもう決めていたのでしょうか。
機材はどうするのか、いつの時期の星座を見に行くのか。
小学生のころだと、それほど詰めてはいなかったでしょうかね。
もっとふんわりと、ただ一緒に星を眺めていたいとか、その程度の話だったのかもしれない。それで十分だったのかも。
何のお話をしているのでしょう……ろくに考えもしないでつらつら書き連ねていたので、ぎこちない文章となってしまいました。
電子メールならばいくらでも書き直せるのですが、これは手書きの手紙。
ここまで書いておいて書き直すのも、これ以上時間を延期するようで
長いうえに実りの薄い手紙で大変申し訳ないのですが、このまま送りいたします。
次からはもっと、充実したお手紙を送れるように
二〇××年 六月二十六日 仙田和高
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