しょっぱいショートケーキ
カラン。カラン。と
鐘の音が晴天の下に響き渡る。
おめでとう。と
歓喜と祝福の声が響き渡る。
私は、この日をどれだけ待ち望んでいただろう。
きっと、それはあの教室で望んだ時からだろう。
扉が開くとともに
純白で飾られた最愛の彼女が現れる。
緊張で震えるその手は汗ばみ
力いっぱいこぶしを作り
その時を待つ。
ベールで被われた彼女の顔は
僕には少し悲しく見えていた。
余裕の無い僕は
ただただ、誓いを時のままに任せる。
それはまるで
無関係な傍観者を演じているかのようだった。
永遠の時の長さを感じるそれは
僕の記憶に
一秒として残ってはいなかった。
式を終え
披露宴へと向かうその四肢は
ピリピリと痺れておぼつか無い。
演目の全てが
無音と共に通り抜けていく気がした。
僕が失いそうになっていた意識を取り戻したのは
自分の席に運び込まれたウェディングケーキを見た時であった。
見つめるケーキの上から
ぽたぽたと味付けされていく。
あの時、
この状況を望んだのは自分であったことは分かっていた。
分かっていたが、
甘いはずのケーキは味を変え続けていく。
頬張ったケーキは
とてもしょっぱかった。
滲んだ瞳で見た彼女の表情が
初めの幻想であったことに気か付く。
凄く。笑顔であった。
『今想う。あの時、君の手を離さなければ良かったと』 いとり @tobenaitori
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