カレンダーすごろくの最終日

ちびまるフォイ

今年の最終日から次の日

「あれ? こんなカレンダーあったっけ?」


見たこともないカレンダーが壁に飾られていた。

きれいな風景もかわいい猫の写真すらない簡素なカレンダーだった。

今どき、こんなものを売っていても買う人はいない気がする。


年末のバカ騒ぎで勢いに任せて買ったのだろうか。


「ま、いいか」


放っておくことにしたとき、床にあったサイコロを踏んずけた。


「いったぁ! なにこれ!?」


足を上げた拍子に、床に落ちてたサイコロが転がって2の目を出した。

瞬時に周りが歪んで、また元に戻った。


『おはようございます。1月3日の朝です!』


「え!?」


つけっぱなしのテレビから語られた日付に驚いた。

ついさっきまで1月1日だったのに、2日もスキップしている。


カレンダーを見ると、1月1日と1月2日には「×」のマークがあり

1月3日には「○」のマークが書かれている。


「まさか、このサイコロを振った目の分だけ、日付が進むの……?」


その時は恐ろしいカレンダーを手に入れてしまったとおびえていたが、

正月休みが終わってからはむしろ喜んでいた。


「明日は月曜日かぁ……だるいなぁ……。あ、そうだ。サイコロを振ろ」


サイコロの出た目は「5」。

あっという間に土曜日までスキップされた。


「このカレンダーって最高じゃん! 休み放題!」


サイコロ任せなので毎回狙った日に着地できるとは限らないが、

それでも休日まで2段飛ばしでいけるようで便利。


ある日、サイコロを振ったときだった。目は「2」。


カレンダーに間違えて記載していた友達の誕生日に着地した。


「それじゃ、今日の誕生日パーティは17時から、私の家でね」


友達から連絡がきたので驚いた。


「え? 前に誕生日は明日って言ってなかった?

 ほら、私が間違えてたから訂正してくれたじゃん」


「は? 何言ってるの? 私の誕生日はずっとこの日だったよ」


「そんな……」


私は自分のスマホのカレンダーに残していた友達の正しい誕生日を確認する。

やはり、明日になっている。

それがどういうわけか、誕生日が前倒しになっていた。

からかうにしては大規模だし、メリットが少なすぎる。嘘じゃなさそう。


カレンダーには間違えて書いていた「友達の誕生日」に「○」がついていた。


「もしかして、友達の誕生日が切り替わったのって、これのせい……!?」


試しに、明日の日付のマスに「庭にヒマワリが咲く」と書いた。

サイコロは振らずに明日になると、庭にはヒマワリが咲いていた。


「やっぱり! このカレンダーは未来のカレンダーなんだ!」


こんな使い方ができるなんて思わなかった。

すぐに予定の書いていない日付マスには、予定や願望を書き込みまくった。


・一生遊んで暮らせる大金を手に入れる

・豪邸を手に入れる

・豪華クルーズで世界一周  などなど


予定さえ書きこめば、サイコロを振らずに確実に予定は来るものの

待ちきれないので平日をすっ飛ばし、目標の日付になるように挑戦した。


どの目が出ても、予定マスに止まれるように、同様の予定を何個も書き込む。


「もうほんと最高! 未来カレンダー、ありがとう!!」


ナイトプールに浮かびながら、トロピカルジュースを飲んで

誰もがうらやむセレブ生活を満喫していた。


サイコロでスキップしていたのもあり、

気が付けばカレンダーも終盤の12月へと差し掛かっていた。


「もう未来カレンダーは終わりかぁ……。来年からどうしよう」


一度でも未来カレンダーの快適生活を覚えてしまったらもう戻れない。

昔のようにわずらわしい毎日を過ごすなんて嫌だ。


私は片っ端から書店やらネットを巡回して、来年の未来カレンダーを探した。


「何も書かれていない真っ白なカレンダー? そんなのないよ、誰が買うんだい」


「私が買います!! どんな値段でも!! せめて情報だけでも!!」


「いくらお金を渡されてもねぇ、そんなカレンダー聞いたことないよ」


いくら探しても、来年用の未来カレンダーは見つからなかった。

カレンダーのマスに『来年の未来カレンダーを手に入れる』と書いてもダメだった。


気が付けば、どんどんカレンダーの末尾に差し掛かっていく。


「ああ、もう今年が終わってしまう……。

 それならいっそ、少しでも長く今年を楽しんでおこう」


翌日から、5日後までの日付マスにそれぞれ「○○マス戻る」と書き込んだ。

これで1~5までの目であれば、自動的に過去に巻き戻る。


>1日後のマス:1マス戻る。その前に、ネズミーランドを貸し切って満喫。


マスにはそれぞれ、戻る以外の予定も書きこんで、未来カレンダーを最後まで楽しんだ。

カレンダーの白い部分が文字で真っ黒に埋まるころ、ついに終わりの日が来た。


「6」


サイコロは、6の目を出した。


サイコロを振らなければ一生今年を繰り返せるが、同じ予定が延々と続くので耐えられなくなる。

サイコロを振ったことで、そんなループする日々も終了した。


「はぁ、今年もこれで終わりか……未来カレンダー、欲しかったなぁ」


カレンダーの日付に「×」が自動的に出現し、6日後へとスキップした。


 ・

 ・

 ・



ふと、壁を見ると、無地のカレンダーが壁に貼られていた。


それも書かれている西暦は来年のものになっている。


「うそ!? こんなことってあるの!? 来年に自動更新されるなんて!!

 やったぁ! これで1年、また自由に予定を楽しめる!!」


カレンダーをめくると、すぐに違和感に気が付いた。

来年用になっているカレンダーの裏には、去年のカレンダーが載っていた。


そして、去年私が書き込んだ予定の日付部分には、すでに予定が書きこまれている。



・一生かけても返済できない借金を手に入れる

・すべての家を失う

・ボロいイカダで世界一周 



「なに……これ……」


来年のカレンダーには、去年に私が書き込んだ内容を反転させたものが予定されていた。


私は大量に書き込まれている同様の予定マスに当たらないよう願ってサイコロを振った。


目は「2」。日付マスは去年の友達の誕生日パーティの日へと着地した。



「お願い!! 今すぐ逃げて!!」



私は友達に叫んだが、すでに遅かった。

友達の死を皮切りに最悪の1年がスタートした瞬間だった。

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