付喪神芝居

安良巻祐介

 

 遠くで小さな歓声が幾つも聞こえている。

 公園の辺りに湧いて出て来た野良芝居が、勝手勝手にやっている泡唄うたかたの声らしい。

 このところ暫くストだとかで除疫所が仕事をしないため、普段だったら陰火を吐きつつ餌を漁る野干(狐の亜種)や不気味な畜生踊りを踊る分福(狸の亜種)と一緒に攫われておしまいの木っ端みたいな野良細工が大量に蔓延って、相当五月蠅いことになっている。

「めいたりめたりおんやまいにて、あらさらまっさいしゅうまいか。はたりかたりて、しゅうまいか。…」

 耳をすませば、そんな声。

 意味がありそうでありはしない、積み上げられた器物の軋みに近い歌だけれど、こんな寂しい風の吹く夜には、読経や禅歌に近い調子を帯びて聴こえる。

 もう何日かを我慢すれば、梟首の頭巾をかむった除疫所職員が影のように現れて、あれらの小さな人・物・怪たちを、一纏めの塵芥として掃除していくだろう。

「みむるてんだら、おんめくり。むしょうはしょうのおんめくり。あさらまっさい、しゅうまいか。はたりかたりて、しゅうまいか。…」

 夜天に小さな襤褸屋根を張って、ヒトや獣のカタチとなった遺棄品の群れが寄り集まって踊り歌うそれらの放歌は、彼らの演じる壺中天ばかりではなく、私たちの暮らす大きな世の中の無常をも、知らず知らずに表現しているように思われた。

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付喪神芝居 安良巻祐介 @aramaki88

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