村人にとってのいい人は主人公か不良か
私が生まれた町を離れ、都会の学校に転入したばかりのころでした。
学校の人ごみや、独特の雰囲気に順応するのは、大変時間がかかりました。
元々木登りや、外を走り回ることが好きだった私は、教室でお絵かきをしているような女子とは中々遊べず、やんちゃな男の子たちと遊ぶようになっていました。
学校はもちろん、都会の雰囲気に慣れ始め、気が抜けたころ、私は数名の男の子たちと外で遊ぶことになりました。
「鬼ごっこでもするのかなー」と公園へ向かった私でしたが、実際には水風船の投げ合いという少々ハードなものでした。
私は元気いっぱいなことは好きでしたが、水風船を人に向かって投げるという行為はあまり好きではありません。
仕方なく私は、その輪から外れ、時々休むために腰を掛けに来た人と話をするだけの時間を過ごすことにしました。
水風船戦争はそりゃあもう過激で、白熱していました。
子供のコントロールですので、あっちこっちに風船が飛んでは離れたところで水飛沫が上がる。
私はただぼーっと眺めていました。
その時でした。
正面で飛び交っていた風船の一つが、私の頭上を越えたかと思うと、背後のベンチで話していた二人の男子高校生の鞄横に落下してしまいました。
見た限り、そこまで派手に水がかかったようには見えませんでしたが、恐らくずっと騒いでいた小学生の集団に腹を立てていたのかもしれません。
それに気づくなり、うち一人の青年がこちらに向かって歩いてきました。
不味い、誰か怒られてしまう。
そう思ったのもつかの間。
その青年から一番近い距離にいたのは、私でした。
私は危機を感じ、立ち上がり、後ずさりました。
しかし、青年の足が止まる様子はありません。その口がわずかに開き、目を見開く様子は激怒した時の兄の姿と全く同じでした。
「おいてめぇ」
私の服の襟をつかみ、僅かに持ち上げられた私は、恐怖から声すら上げることができませんでした。
「ガキがはしゃいでんじゃねーぞ!」
声変わりなのか若干かすれた声で怒鳴れた私は、なぜ私がという困惑と恐怖から目に涙を浮かべながら、それでも小鹿のように体を震わせながら声を絞り出しました。
「わ、私……ちが、ご、ごめんなさいぃ」
とうとう泣き始めた私にも、特に青年が動揺する様子はありませんでした。
しかし青年がふと周りを見渡したところで、突然、許したような表情とはまた違う、憐れみ、愁いを帯びた表情へと変わりました。
「あー、お前も大変だな。悪かったよ」
???
私は最初何を言われているのかわかりませんでした。
目が点になった私から手を放し、青年が見た方向へ私も目を向けました。
そちらには、私がこんな状況であることに気づいた数名が、こちらを見ながら「やーいあいつ絡まれてやんのー」と言わんばかりの腹の立つ笑顔を浮かべている姿がありました。
人の輪から外れ、この状況でただ笑われているだけの私を見て、青年が何を思ったか、想像に難くありません。
恐らく私をかわいそうな子だと思ったのでしょう。
こんな不良丸出しの青年は、自分のつらい過去と今の私を重ねたのかもしれません。
誘われたはいいものの、自分が輪に入れるような空間などどこにもなく、隅で膝を抱え、フォローしてくれる人など誰もいない。ただちらちらと見ながら、笑っているだけ。そして、周囲は最初からこうなることを分かったうえで声を掛けてきたのだと気づく。
しかし、ある日、暴力で訴えると、誰も自分を笑わないことに気づいた。
皆が自分を見て、自分を否定せず、そのうち相手の方から自分のもとへ媚を売りにやってくるようになり……ってもういいですね、これ。
とにかく青年はそのまま友人と共に帰っていきました。
私は見ず知らずの不良に絡まれるという体験に、都会こわいと思いながらも、不良だってねはいい人じゃないかと、嬉々とした気持ちもありました。
心臓がいまだに破裂しそうな中、どうにか興奮を鎮めようと、子供たちの輪の中に入り「まじやばかったんだけど」という話をしに行きました。
「おい根崎!手ぶらで何してんだ!邪魔!」
「殺る気がないなら帰れ!」
「ちんたらしてんじゃねえ!」
秒でズタボロにされたメンタルに、びしょぬれになった体。
私は再び泣きながら家に帰りました。
道中、不良の慈愛に満ちた表情を思い出し、冷えた体が暖かくなるのを感じ、また泣きたくなりました。
村人Aが主人公たちに人生を教えてもらう話 根崎 @sonezaki3070
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