チャレンジ【短編】
真田 貴弘
短編
――西暦2022年
とある仮想空間。
何も無い荒涼とした大地がただ広がるだけのフィールド。
少年はその場所で自分の愛機”武御剣”に乗ってとある人物を待っていた。
武御剣は肩が大きいのと左肩にフレキシブルシールドが付いているのが特徴でデザインが人気のメーカー製の機体。
少年の武御剣はそのカスタム機だ。
そしてVB武御剣に搭乗する少年の名は”
日本人離れした美しい容姿をした少年で、実家は由緒正しい神社の家系。
宮司である祖父の零と祖母の珠姫、そして久那家のメイドでダークエルフのシャーラ・シェラザードの四人暮らし。
両親は訳あって遠く離れた所で離れて暮らしている。
その伊織の居るフィールド――”荒野”を形成する仮想空間の名はヴァリアブル・ボット・オンライン――通称VBO。
それはヴァリアブル・ボット――通称VBと呼ばれる自作可能のボットを操って遊ぶ国内で人気を誇るVRMMOの一種だ。
VBはフレームと装甲、そして性能スロットの三つの要素で構成される。
フレームはVBの内部形状や
装甲は耐久力と
性能スロットはVBの数値化された各種ステータスパラメータとVBの
つまり、VBの性能を決定するものである。
分かり易く説明すると、フレームと装甲は見た目、性能スロットはVBの性能の事である。
性能スロットの性能は各種ステータスパラメータの数値とその数値の空き容量が高く、
性能スロットのステータスパラメータは自分である程度イジれるが空き容量が多ければ多い程、数値を弄りやすく、またその分の性能を高くする事が出来るし、空きスロットが多ければ、【探査】や【エネルギー増強】、【反応速度向上】等、スキルが多く積めてその分VBの強化が可能になる。
運営から既存のVBデータ一が発売されているが、BVOのゲーム内通貨でも十分なフレームパーツや装甲パーツ、性能スロットが買える。
自作する事も可能でフレームと装甲をブロックみたいに組み立てられるVBは仕組みも分かりやすく手軽で簡単、それにVBの性能は性能スロット言うパーツで制御するのでフレームと装甲に左右され難い。
そのお陰で性能とは別に見た目に愛着を持って拘れるのも人気の理由だ。
課金要素はあるもののガチャの様な運次第ではなく、れっきとした商品として売りに出されているので欲しいアイテムを現金で、手頃な価格で入手出来る他、プレイヤーが自作したVBを運営が代理で売買し、現金収入を得られると言う事も人気の一つであった。
「遅れてゴメーン!会議が長引いちゃって!」
其処へ頭部と胴体が一体化し、二の腕と太腿が伸縮自在の蛇腹関節、手のマニュピレーターが四本爪のVB”オクトクラブ”に乗ってログインしてきた女性プレイヤーが現れた。
「いえ、先せ……ヴェルさん。無理言ったのは此方ですから」
ヴェル、と名乗る女性プレイヤーが話を切るのと同時にまたも一機のVBが現れた。
その機体は伊織の搭乗する機体に何処となく似ているVB”アスト”。
「済まないね、こんな遅い時間になってしまって」
申し訳なさそうに謝罪するアトラの搭乗者。
「いえ、それはお仕事の都合上、仕方ないです。それよりこの勝負、今度こそ勝ちます、ソウイさん――いえ、チャンピオン」
プレイヤー名”ソウイ”――彼はこのVBO内で三年間上位一位、つまりVB乗りの頂点に君臨する人物だ。
「お、言うね!だが、私もまだまだ負けるつもりは無いよ。……君には勝ててもないけど」
「じゃあ、行くよー。Ready……Go!!」
ヴェルの合図と共に二機のVBは一瞬で空高く飛翔し、ガチンコバトルが始まった。
お互い手の内は熟知していた。
二人共、近接戦闘と遠距離戦が得意。
その為、実弾仕様の自作アサルトライフルでお互い位置を交換するように回転しながら中距離で打ち合う。
武御剣は左肩のフレキシブルシールドを、アストは右腰の装甲に弾丸が同時着弾。
爆炎をあげながら装甲が吹き飛び破片が地上に落下、直ぐに視認できなくなる。
「グッ!?」
「ハッ!やるねぇ!流石、VBの申し子”イオ”!」
白熱のバトルに興奮し、徐々に言葉遣いが乱暴になるソウイ。
久那・伊織のVBO内でのプレイヤー名は”イオ”。
イオはVBでの戦闘だけでなくVB のビルド販売も手掛ける今人気急上昇中のランキング上位プレイヤーなのだ。
イオとソウイのVB乗りとしての腕は互角。
今まで二十九回バトルして二十九回引き分けに終わっている。
お互い隙きを見てアサルトライフルの先端に取り付けたフォトンで刀身を形成する銃剣で得意の接近戦を仕掛けようとするも、逆に仕掛けられた方はカウンターを仕掛け、相手を斬り飛ばす。
それでもお互い紙一重で急所は避ける。
瞬く間にボロボロになって行く二機のVB、武御剣とアスト。
此処までの所要時間は僅か三十秒。
しかし戦っている二人には二時間にも三時間にも長く感じられた。
追い詰め、追い詰められて行く二人。
機体は最早保たない。
そう思った瞬間、二人はアサルトライフルを捨て、アトラは両手に双銃剣”
ソウイの愛機アストは空中で武御剣の胸に見事な蹴りを叩き込み、怯んだ隙きに首を雷光電のガンモードで吹き飛ばす。
更に追い打ちを掛け武御剣の両腕をアトラが装備する雷光電をソードモードに切り替え、双剣で殆ど同時に斬り飛ばす。
そして、爆炎を上げながら地上に落下するイオの武御剣。
「これで、終わりだ!!」
勝利を確信するソウイ。
留めの一撃を叩き込むべく落下する武御剣に向かって加速するアスト。
アストの剣先が武御剣の搭乗席のある胸部中心の装甲に接触する瞬間。
アストの搭乗席に突如ミサイルの接近を知らせるアラームが鳴り響き、機体両側面と背中が連続爆発を起こす。
「なっ!?」
驚愕に目を見開くソウイ。
「まさか!爆発に紛れてマイクロミサイルを……しかも、ジャミング付きとは!」
マイクロミサイルはミサイルの中でも一番小型なので搭載できる本数が多く、また誘導性能も高い。
その代り、射程距離が短く威力は最低クラス。
今回はマイクロミサイルに別売りのジャミン機能を付加し、爆炎に紛れてにサイルを打ち出してそれを相手に気付かれる事無く見事に直撃させた。
だが武御剣の武装にミサイル射出機は含まれていない。
外観からも以前のイオの武御剣カスタムと比べて変化はない。
それ故、ソウイはミサイル兵器の存在に気付かなかった。
「やっとお小遣いが溜まって買えたんです。マイクロミサイルとミサイルの機能拡張データ。今回、それをカスタムした時に取り付けた腰部装甲のブースターユニットに内蔵してたミサイル射出機に仕込んでたんです」
「ああ、そうか」
機体制御を失い武御剣と共に地上に落下するアストの搭乗席でソウイは溜息を吐く。
「私の敗因は君が子供特有の事情がある事を忘れていた事だ」
チャレンジ【短編】 真田 貴弘 @soresto
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