第一章 Encounter.
第一節
0
――広大な宇宙。
現代の技術による、その宇宙への探求は今も尚続けられている。
だが……、事実宇宙の探求とは現代では
科学者の中で騙られる「宇宙」と言う言葉は本来「観測可能な宇宙」の範囲内であり、そもそも、観測によって遠い宇宙で発見した銀河を見つけたとしても、宇宙を一周し本来近距離にある銀河を測定してしまうと言う事態も起きる程に、未だ人類は宇宙に近づけていない。
数値で表すにも、「兆」等という我々の日常的な数の尺度では無く、指数での表現が必要であり、定値で表すことの出来ない世界を指数で表すことはミリメートルや光年でさえ誤差以下の違いでしかないのだ。
……ただ。
科学の範囲に置ける話で在れば、である。
時に、ある者はこう語る。
「宇宙とは球体の形状をし、我々の地球でさえ
宇宙の外に行けば、同じような球体の宇宙が幾つも存在する。
……その宇宙の外。
その場所は正に無であり、「虚構」や「虚無」とも呼ばれる場所。
周りにはゴロゴロと宇宙と呼ばれる球体が暴力的な数値の大きさで転がり、溢れる世界。
言うなれば――宇宙の
――観測不可能な世界で、ある衝突が起きた。
――――――――――――――――――――――――――。
音は無い。
伝わる衝撃も無い。
ただ、その力と呼ぶべき何かが、その残骸を何度も何度も衝突させていた。
…………………………………………………………………………………………。
力の波紋は、歪みとなってあらゆる宇宙にまで広がる。
世界その物が歪むように、その衝突による波紋は何処かの宇宙にまで影響を及ぼし始めた。
1
ジャパリパーク、ゴコク地方。
嘗て、突然出没した日本を模したようなその姿の島は、後にジャパリパークと準え、動物が人間と同じ様な姿で観測されたフレンズという存在と触れ合える場所として確立し続けてきた。
だが、在る事件を皮切りにジャパリパークは閉鎖され、人類とジャパリパークの繋がりは途絶えたかと……思われた。
だが、ある日その島に一人の少女が生まれる。
少女の名はかばん。
嘗て、ジャパリパークのガイドであるミライという女性の髪の毛にサンドスターが付着しフレンズ化したという、ヒトのフレンズ。その生まれも存在も異例で有りながら、キョウシュウ地方に生まれ、数々のフレンズの悩みを解決し、絆を深め、時には彼女自身もまたフレンズに救われた。
多くの出会いとその旅は、彼女自身の成長と、絆を生み出した。
そんな彼女の横に立つ、一人のフレンズ。
特徴的な黄色地に斑点模様の装飾があり、動物本来の耳や尻尾を持つ、かばんという少女の最愛の友にして最高のパートナーであるフレンズ。
名を、サーバル。
天真爛漫であり、常に笑顔が絶えないサーバルは、かばんにとっての支えでもあり、大切な友人だ。ただ、何処か抜けていることもあるが、そこも彼女にとっての愛着だろう。かばんという少女に出来ないことをサーバルが行い、サーバルが思いつかないことをかばんが提案する。真に互いの欠点を補うようなパートナーであり、それは精神面でも同じだった。前向きなサーバルという少女は、引き気味のかばんという少女の背中を常に押し、かばんという少女の勇敢的な特徴はサーバルにとっての誇りでもあり嬉しさでもあった。
必要不可欠な二人の少女。
今彼女達は、キョウシュウでの旅を終え、ゴコクへと足を踏み出していた。
そして。
「「うわぁぁぁぁーーーー!!」」
絶賛セルリアンに追われていた。
「何で此所にセルリアンが居るのーーーーー!?」
「わ、わからないよーーーーーーー!!」
二人の背後に迫り来る存在。
セルリアン。
フレンズという存在が出現したと同時期に出現したと推測されるジャパリパークが生み出した謎の生命体。奴等はフレンズとは対称的な程に、無感情で、その性質はフレンズを襲い輝きを奪うという。
核という石を体内の何処かに持ち、その部分を破壊することでセルリアンを倒すことが出来るのだが……。
「いったい何匹居るのーー!!」
「ちょっと待っててね!」
「サーバルちゃん?!」
サーバルが駆け抜けながらに後ろを確認する。
「いーち……にーい……さーん……」
「ど、どう! わかる!?」
息を切らせながらに何とか駆け抜けるかばんの言葉は、その切迫した状況を物語っていた。ただ、追って来ている数が数であれば……何とか撒けるかもしれない。
そう、微かな希望を強請って帰ってきた言葉は……。
「……わかんないや!」
いつもの空元気なサーバルの顔は、引き攣り青ざめた笑顔だった。
結論。
数え切れない程、膨大。
「えぇーーー!!」
彼女達は我武者羅になって山路を駆け抜ける。
入り組んだ木々の中でかばんは必死になりながら活路を考える。
――その時。
不意に、かばんのポケットから、何かがポロッと落ちた。
赤黒く、何処か邪気を満ちたような……華奢な少女が持つ物にしては酷く邪悪な物。
かばんはその事に気が付かずに、サーバルと共に山道を駆け抜け過ぎて行く。
赤黒い鉱石のような物も、彼女達の意志とは別の方向に転がり……山を下りだした。
2
この物語を語るには、もう一つ、在る事件について話さなければならない。
嘗て、このジャパリパーク……そのキョウシュウ地方ではある事件が発生した。それは、一人の意志を持った黒きセルリアンの企みによって、各地のフレンズ達が暴走し同じフレンズを襲い出すという残酷極まりない事件だった。
暴走したフレンズは情け容赦なく嘗ての友に牙を向け襲いかかり、その惨劇を黒幕は愉しそうに眺めていた。
黒幕――かばんと酷似した、通称黒かばん。
奴の企みを阻止する為に、かばん達は暴走していないフレンズ達と協力し、黒かばんを打倒することに成功した。
……だが、物語は終わっていない。
かばんは、黒かばんとの決着の際、ある一つの異例を行った。
それは、黒セルリアンのかばんの核である部分を摘出し、その曖昧な状態で彼女はその手に持ち続けていたのだ。
そして、その結果……更なる運命と交差することとなる。
だが、舞台の幕を開けるには未だ早い。
この物語を説明するには、まだ、語るべき事が残っているのだ。
そう。
この物語は、運命を喚び、交差する物語。
未だ此れは、序章に過ぎない……。
3
「だァァァァー……疲れたぁ」
ゴコク地方、森林。
そこに、一人の少年が大岩の上で寝そべり声を上げていた。
少年にも見え、大人に成り掛けている成長途中の青年。周りからはシロと呼ばれていた。
パークの外から来た人間とフレンズのハーフ……シロは、キョウシュウ地方からその旅は始まった。図書館に住み着き、博士達の専属給仕を行いつつ、彼はキョウシュウの中で数々の出逢いと経験をしてきた。時には師と仰いだヘラジカに稽古を付けて貰い、時には姉と慕うライオンに相談をしたり、時にはフレンズ達を楽しませる為に一役買うことや、少年らしい青春の甘酸っぱい恋をした。
だが、楽しいことだけでも無い。時には苦悩したのだ。
嘗て彼はセルリアンになりかけた。その結果一度は思いを寄せる少女と
そして、シロは彼の思い人であるかばん……彼女と結婚した。
愛し合う二人は、互いに手を取り合い、壁を飛び越え、愛を育み……そして、幸せを勝ち取った。真に愛し愛され……ていたが、シロに此所で問題が発生したのだ。
かばんのお腹には二児の子供が宿り、幸せを感じていたが、その反面彼は片腕のみ……生まれてくる二児の子を抱き上げられないのでは、父親として……家族として心苦しい。
この問題を解決すべく、彼等はゴコクに赴き、ゴコクを隠れ蓑としているカコと呼ばれる科学者は、その腕の復元が可能だと説いた。
かばんの妊娠。
シロの腕の復元。
出産までに腕を治したいシロにとって、期限は刻一刻と迫る一方だった。
シロの腕の復元には、けものプラズムを用いた応用的な訓練を必要とされたが、未だに成果は掴めない。だが、それと反してかばんのお腹は膨らみ、着々と二児の子供達は光をその目に捕らえる日は近い。
それが、出産予定まで一ヶ月を切っていた、青年の状況だった。
「……どうすれば良いんだ?」
失った片腕を覗く。
感覚が掴めず、一人模索しザッ続けていた。
(……足りないんだ)
寝そべった大岩の上で、力の抜けた表情が空を眺める。心は曇っているというのに、空は関係ないと云わんばかりに爽やかザッな晴天模様だ。
彼が思う足りないとは、その腕を形成するサンドスターが余りにも不足しているという点であった。シロは人間とフレンズのハーフ。それも人間世界の中で生きてきたシロは、多少ジャパリパークでの生活に慣れたとしても、本質部分に問題がある。
要は、彼が自信に貯蔵出来るサンドスターが余りにも少ないという点だった。
そして、失った片腕……右腕を形成するにはサンドスターによって形成される肉体、通称プラズムを、サンドスターコントロール……つまり自ザッ在に操り生成しなくてはならない。
「俺にサンドスターが無いって言われてもな~」
どうしようも無い事実に先程まで焦っていたが、何処かの一線を抜けたのか妙に冷静になっていた。カコも「なんとかしてみせる」とは言ってくれた物の、獣部分が察してしまっているのか「これは自分の問題だ」と言い聞かせてくる。
それ故に、今の今まで根詰まりなのだ。
(でも、何とかかばんちゃんが子供を産んでくれるまでには……せめて産まれて来たら抱き上げてあげたいんだよなぁ)
身体を起こして、ポリポリッと頬を掻く。根性では何も解決しない。だから頭を回す……だが、カコ程の科学者でも今真に悩み考えている。
そう考えてしまうと、自分に自信が持てなくなり、だがやらなきゃと思い……無限ループに陥る。
「よし、頭が駄目なら身体を動かそう! 復習だ復習!!」
パンッと片腕で頬を叩き気合いを入れ直す。両手の感覚が掴めなかったせいか、ジンジンと片頬だけが痺れていた。
ピョンッと大岩を降り、二の腕より先が無い片腕に目を落としザッて、力を込める。体内のサンドスターを片ザッ腕に集中させ、イメージ通りに形成をザッ始める。
二の腕から先ザザッワジワと光の粒子が収束し始ザッ元の腕が姿を見せ始めている。未だ半透明ではあるが、ジワジワザザザッし、肘の辺りまで形ザザッ上げていく。
だが。
「うわっ!?」
パァンッ!! と、途中で粒子達が弾けザザッし、形成されザザップラズムが消え元の状態に戻ってしザザッった。
「あれ? 何でだ?? 今結構良かったと思ったのに……??」
ふと、シロは霧散した光の粒子達に目を追いやる。
光の粒子は大気に散り散ザザッなりながら、まるで一ヶ所に集まるかのように彼の後ろへと流れていくのだ。まるで、そこに何か在るかのように、彼の横を素通りし背中の先へとザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
……。
彼は、振り返ってしまった。
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