第2話
太陽の光が部室に差し込む。
楽器がないと、とても広い。
だんだんと暖かくなってくる部屋で私はシロフォン(木琴の種類のひとつ)に語りかける。
「今日こそは成功させる⋯⋯」
6/8(8分音符が6個で1小節)の曲は初心者にはとても難しいのだ。
特に、アーティファクト(その小節の前)から入るフレーズは何度も「滑る(ひとつひとつの音の長さが譜面通りではない)」と言われ続けた。
だから、今日こそは言われないように。
本番では使わないけど、成功させるために語りかけるのだ。
「今日は、大丈夫」と。
自己暗示である。これは中学時代から続けている。
中学の3年間はずっと卓球部だった。
その時も、1人で「右のコースはこの位の角度でやればミスるけど、あえて左のコースに持ってかないと読まれるか⋯⋯」
みたいにブツブツと言って居たのである。
それをする人は自分の周りには誰もいなかったが、後の番組で「口に出すことで脳の記憶が整理される」と聞いて間違いではなかったと安心した。
「よし、基礎練習やるか⋯⋯」
基礎練習のメトロノーム(リズムをキープする練習に使われるもの)に合わせて4分音符、8分音符、3連符、16分音符⋯⋯と叩くものである。
聞くだけでは簡単のように思えるが、やってみると少しずつズレていくのである。
特に3連符が私はできなかった。しかしそれが出来なければ6/8はなかなか出来ない。
どのくらいの時間を費やしただろうか。
私の学校は全く吹奏楽が強い訳では無い。
それでも、あれ以上の努力はこの先することはないのではないか。
そして地区大会2週間前になってようやく出来るようになった。
「よし、これをキープするぞ⋯⋯」
1週間前になり、体育館での練習が始まった。
しかし、不運なことにテスト週間と被ったのだ。
だから特別に部活を許可してもらっていた。
教務係の先生には、
「赤点をとったら、ありえないからね?」と圧をかけられた。
それには苦笑で「⋯⋯っ!」と返すしか私のコミュニケーション能力では出来なかった。
もちろんテストは赤点を回避したが。
そして本番前の待機場所で
「⋯⋯落ち着けば大丈夫」
と再び自己暗示である。
私の出る学校は高校生の部(A編成、B編成、C編成がある)ではなく、大学小編成(演奏人数30人以下)の部である。
それは私のいる学校が高校ではなく、高専という5年間通う学校で4、5年生は短大生に分類されるからである。
だからなのかは分からないが、一番最初の演奏だった。
シロフォンは会場で借用したものなので、初めて使うものだ。
私はそのシロフォンがオクターブ上(高いドレミファソラシド)であるかを目視で確認した。
打楽器をステージの上に置き、また待機場所で待った。
入場は管楽器と合わせなければならないが、全く指示を出してくれず自分達で合わせて入場した。
そして、光が当たる。
その光を掴むように。いや、包み込むように演奏した。
光の先に音が届くように。いや、響きが届くように。
演奏が終わり、写真を慌てて撮る。
これが最初で最後の、吹奏楽部20人のコンクール演奏である。
そして、さらなる光を見つけてそこに突き進む。
その光の先には何が見えるだろうか。
それを楽しみにしながら、演奏の結果を待つのである。
光の先には 囲会多マッキー @makky20030217
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます