ドジな女の子と同棲生活
sirokuro
第1話 ドジな女の子と同棲生活
どうも、初めまして。俺の名前は花咲 ヒバリです。身長は高めで体は細いほうです。
俺は今、ものすごく面倒な事に巻き込まれています。
その原因を作った人の名前は西蓮寺 心。この子は今日、俺の通っている四季彩学園に転入してきたんだ。
だが、俺は心と会うのは今日が初めてじゃない。
実は一週間前から心とは会っていたのだ。
なぜ会うことになったのか話すと長くなるのだが、聞いてくれ。俺の今後の苦労も考えて聞いてくれ。
まずは昨日の朝のことから話すとしよう。
俺は朝、自分の部屋で起きて、歯を磨き、朝ごはんを食べ、自分の部屋でゴロゴロするというごく普通の春休みを過ごしていた。
この朝の時点で俺は嫌な予感がしていたんだ。
なぜかって?親の顔や行動を見ればだいたい分かるものだろ?
でも俺は、何かいいことでもあったんだろと思い、特に気にすることなく漫画を読んでいて、気付けば昼の十二時だった。
「お兄ちゃーん!ごはんできたよー!」
妹のクイナが部屋のドアを開けて俺のことを呼びに来た。俺はいつも自分の部屋でゴロゴロぐーたらしているので、クイナには毎日ご飯の時には声をかけてもらっている。
ちなみにクイナは中学三年生で俺は高校二年生だ。
「いつもノックぐらいしろって言ってるだろ?俺が何かしてたらどうするんだよ」
「何かって、なに?」
「そりゃあ、思春期男子のすることだよ」
「っ!?お兄ちゃんのバカ!変態!」
「これだけで分かるお前もどうかと思うぞ」
「っ〜〜〜///!大っ嫌い!」
クイナはそう言って、顔を真っ赤にしながらリビングの方へと行ってしまった。これもいつも通りのことだ。
俺もクイナに続いてリビングに行くと、母さんに頭を叩かれた。
「何すんだよ」
「何すんだよ、じゃないわよ! クイナになに言ったの?めちゃめちゃ怒ってるじゃない」
「あー、まぁいつも通りにからかっただけだよ」
「はぁ、クイナもこんなダメなお兄ちゃんがいるなんてかわいそうに」
「なんで他人事なんだよ、母さんの息子だろ?」
「家のことを何もしない子なんて息子じゃありません〜!はぁ、ホント、お父さんに感謝しなさいよ?」
「なんでだよ」
「すぐに分かるわよ。ほら、さっさと座って食べなさい」
「??...わかった。いただきまーす」
「本当に自由すぎる子だわ...相手の子がかわいそう...」
母さんが小声で言っていることを聞き取ることができなかったので、気にせずに昼飯を食べることにした。
昼飯はカレーライスだった。ちなみに言うと、レトルトだ。
昼飯を食べ終わり、皿洗いをした(無理やりさせられた)後、部屋に戻って昼寝をした。
目が覚めるともう夕方の4時だった。
「マジか...一時間だけ寝るつもりだったのになぁ。ま、しょうがないか」
いつも夕方からトレーニングをしているので服を脱ぎ、トレーニングウェアに着替えようとしたとき、部屋のドアが開いた。
「だからいつもノックしろって言って...え?」
「...え?」
え?誰この人?すげぇ可愛いんだけど?それに胸もでかいし、くびれもいい感じだし、綺麗な金髪をしてるし...すげぇ俺のタイプなんだけど...
俺はそんなことを考え固まっていると、同じく固まっていた金髪の女性の顔が、どんどん赤く染まっていき、近くにあった漫画をおもいきり投げてきた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!へんたーい!!」
「それは危ないだろ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「落ち着いてくれぇぇぇぇ!!」
この女、そこにある漫画を全部投げるつもりか!?と思いながら全て避けていると、金髪の女の後ろに、よく似ている女性が来た。
「な、何してるの!?やめなさい!」
「いやぁぁぁ!!」
「こらっ!」
ゴツンッ!と美人な女性が殴ったとは考えられないような音が部屋に響いた。
もちろん、殴られた方の女は痛そうに頭を抑えている。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ウチの子が本当にごめんなさい!」
「え?あぁー、別に当たってないんで大丈夫ですよ?」
「あ、」
「どうかしましたか?」
女の人の反応がおかしい。これは、もしかして!?
そう思った時には目の前に拳があった。
もちろん叫びながら殴られたが、ギリギリの所で拳を受け止めることができた。
避けると腕が痛くなってしまうからな。
「はっ!ごめんなさい!パンツ一枚で近寄られたので、つい反射的に...」
「...こちらこそこんな格好で近付いてしまってすみません」
やべぇよ、この人達...可愛いのに超乱暴的だよ...
まぁ、俺がこんな格好をしているからだろうけど...
そう思い、急いで着替えを済ませた(女性二人にはリビングに行ってもらった)。
「あの二人は母さんの友達か?」
そんなことを考えながらリビングに行くと、初めに俺の部屋に入って来た方の女性が顔を真っ赤にさせながら目の前まできた。
「さっきはごめんなさい!その、異性の裸を見たのは初めてだったので、」
そこで、テーブルの方からガタッ!という音が鳴ったかと思うと、母さんがドカドカ歩いてきて胸ぐらを掴まれ、持ち上げられた。
け
「ちょ、苦しいって!」
「あんた、初めて会った女の子になんていうもん見せてんの!ちゃんと謝りなさい!」
「いてっ!」
そう言って俺は頭を床に無理やり抑えつけられた。
母さんの力ってこんなに強かったのか?俺だって鍛えてるつもりなのに...くそっ。
母さんの力に抗うことが出来なくて惨めな気持ちになっていると、女性二人が慌てながら母さんに事情を説明してくれて、ようやく解放された。
「...母さん」
「なに?」
「なんでそんなに力が強いの?」
「昔色々あったのよ」
そう言った母さんの顔は凄く楽しそうだった。昔のことを思いだしているのだろう。
「はいはい、とりあえずみんな座ってくれ」
「なんだ父さん、帰って来てたのか」
「あぁ、この人達を家に招待する予定があったからね。ていうか、ずっとここに居たのに気付いていなかったのか...」
「色々と気になったことがあって周りを見る余裕がなかったんだよ」
「そうかい。それじゃあみんな、とりあえず自己紹介しようか」
自己紹介か、名前だけでいいよな?
すると、クイナが手をあげ「はーい!はーい!」と言いながら立ち上がった。
「私の名前は花咲 クイナです!好きな食べ物はピザ!嫌いな食べ物はないでーす!中学三年生の十五歳でーす!」
パチパチと拍手する金髪二人組。
そんな中、花咲家のみんなは笑いを堪えようと我慢していたが、母さんは我慢出来ずに吹いてしまった。
「あはははっ!ウチではピザなんて滅多に食べないでしょ?それにクイナが一番好きな物はハンバーグでしょ?」
「わぁーー!!お母さん言わないでよ!子供っぽいから言わないようにしてたのに!」
クイナがそう言うと、リビングにいた全員が笑い始めた。
そのおかげで金髪の女性達の緊張していた雰囲気がなくなった。
やっぱりクイナってこういう場を和ますのが得意だよな、俺には真似できないので少し羨ましい。
すると、次に手を上げたのは俺に漫画を投げてきた方の女性だ。
「わ、私の名前は西蓮寺 心です!好きな食べ物はお寿司で、苦手な食べ物はキノコ類です!高校二年生の十六歳です!」
みんながまたパチパチと拍手する。
え?好きな食べ物とか言わないとダメなの?ていうか俺と同じ高校二年生だったのか。
そんなことを考えていると、みんなが俺の顔を見てきた。
「ん?俺の顔に何かついてるか?」
「ちがうよ!今度はお兄ちゃんの番!」
「そういうことか、俺は花咲 ヒバリだ。西蓮寺さんと同じで高校二年生だ」
まぁ自己紹介だしこのぐらいでいいだろう。
だが、まだみんなは俺を見ている。
「なんだよ」
「好きな食べ物は?」
「そんなもん別に言わなくてもいいだろ」
「え...言ってくれないんですか?」
「そんな悲しそうな目で見ないでくれよ。...あーもうわかったよ、カレーが好きだ。嫌いなものは、トマトだな」
すると、西蓮寺さんが「カレーが好きで、トマトが嫌い」と言いながらメモ帳に書き込んでいる。
「なんでメモってるんだ?」
「それは、だって、...ヒバリさんの好きな物とか把握しときたくて...」
「え?悪い、聞こえなかった。なんだって?」
「な、なんでもないです!気にしないでください!」
最後の方が聞き取れなかったので聞き返したら、顔を真っ赤にしながら言われた。
まぁいいか、と言われた通りに気にしないでいると、西蓮寺さんの隣に座っている金髪の女性が自己紹介を始める。
姉なんだろうなぁと思っていると、その予想は間違っていた。
「私の名前は西蓮寺 春香です。心の母親で、ツバキさんとイスカさんとは同級生です」
ツバキというのは俺の母親の名前でイスカというのは俺の父親の名前だ、というよりも、衝撃的なことを聞いた。
え?母親?しかも俺の母さんと同い年だって?こんなに見た目若いのに?
「えー!?じゃあそんなに若そうなのに40歳超えてるのか!?」
「「「「「...」」」」」
俺がそう言うと、和やかだった雰囲気が殺伐とした空気になった。
正確に言うと、春香さん以外は俺に「なに言ってるんだ!」と目で訴え、本人である春香さんからは黒いオーラがでている。
しまった、これは押してはいけないスイッチを押したな...
そう思った瞬間、目の前まで拳が接近していた。
「っぶね!」
その拳をなんとか避けることができるた。避けることはあまりしたくないが、こればっかりは本能的に避けてしまった。
殴ってきた春香さんは、「はっ!」と我を取り戻し、「おほほ」と笑っている。
「ヒバリすごいわね。心は昔、この辺の不良達の総長だったのよ?それをあんなあっさり避けるだなんて」
「僕なんか何回ボコボコにされたのかわからないのにな!」
「ちょ、ちょっと!それは言わないでくださいよ!恥ずかしいんですから!」
...不良の総長か、そんな風には全く見えないほど綺麗なのにな。
「心ちゃんは私達のこと知ってるわよね?自己紹介はいるかしら?」
「大丈夫ですよ!」
「そう?じゃあ本題に入ろうかしら」
「何の話をするんだ?」
「まぁまぁそう急かさないでよ♪︎」
こんなにテンションの高い母さんは久しぶりだ。
何か言われることはわかったので、春香さんと父さんとクイナの方を見ると、嬉しそうにニヤニヤしていた。
西蓮寺さんの方を見ると顔を赤くしながらモジモジしている。
そして、最後にもう一度母さんの方を見ると指を刺されながら、
「ヒバリと心ちゃんには今日から一緒に暮らしてもらいます!」
はぁ?なんの冗談だ?と思っていると、おぉー!と春香さんと父さんとクイナはパチパチと拍手をしていて、母さんはドヤ顔でまだ俺のことを指で指している。
西蓮寺さんの方を見ると、なんとういうか、こう、凄く可愛かった。顔を真っ赤にさせ、両手を頬に添えていやんいやんと首を振っている。
「西蓮寺さんが嫌がってるだろ?じゃあこの話は無しで...」
「ダメー!」
「むぐっ!?」
いきなり西蓮寺さんに口を塞がれてしまった。鼻まで一緒に塞がれてしまったので苦しいが、背中に柔らかい物が押し付けられていて気持ちいいので、まぁ良しとしよう。
これがおっぱいか、おっぱいって柔らかいなぁ、あれ?何だか、だんだん意識が...
「心!早くヒバリくんを離しなさい!苦しそうにしてるじゃない!」
「え?あ、ご、ごめんなさい!!」
「はぁ、はぁ、大丈夫だ、気にしないでくれ」
「...お兄ちゃん、顔ニヤけてるよ」
「お前の目がおかしいだけだろ」
「ひどーい!」
危ない、危ない。西蓮寺さんの胸の感触を思い出していたら、クイナに気付かれそうになってしまった。
俺が安心していると、服の袖を少し引っ張られたので誰か確認すると、西蓮寺さんだった。
「あの、大丈夫ですか?けっこうな力で塞いじゃいましたけど...」
「大丈夫だよ、だからそんな泣きそうな顔をするなよ」
「うぅ、ごめんなさい、次からは気をつけますので」
「だからもう気にしないでいいって」
「ありがとうございます、ヒバリさんって優しいんですね!」
「これぐらい普通だろ」
俺達が二人で話していると、母さん達がニヤニヤしながらこちらを見ているのに気がついた。
「なんだよ」
「べっつに〜?そうだわ!早く荷物を取っておいで!」
「なんのだよ」
「二人で生活するためのよ!家具とかはもう揃えてあるから、とりあえず服を持って行きなさい」
「はぁ!?あれは冗談じゃないのか!?」
「冗談なわけないでしょ?心ちゃんだって楽しみよね?」
「はい!」
「...」
俺に味方はいないのか?そうだ!クイナなら止めてくれないだろうか?なんやかんや俺のことが好きなあいつなら止めてくれるかもしれない!
「クイナは俺がこの家からいなくなるとか嫌だよな!な!」
「そんなの決まってるじゃん!」
「だよな!ほら!聞いてくれ母さん!クイナだって俺がいなくなるのが嫌だって...」
「早く心さんと暮らして!」
「...」
くそっ、アテがはずれた!でも、俺には父さんがいる!
「父さんもそう思っているのか?」
「もちろんだ!」
「...」
この家族、俺が何もしないから早く出て行ってほしいのか。まぁ気持ちはわかるが、寂しい。
地味にショックを受けていると、春香さんが俺の近くまで来た。
「あら、ヒバリくんはウチの娘と一緒に暮らすのが嫌なの?」
「いえ、そういう訳ではないんです。ただ、いきなりだったし、男女二人で一つ屋根の下で暮らすのはどうかと...」
「それなら気にしないでいいわよ!もし赤ちゃんが出来たとしても、私達がお金を出すから心配しないで!」
「赤ちゃんなんか出来ませんよ!?」
「そうだよ!ママは何言ってるの!?」
俺と西蓮寺さんが顔を真っ赤にしながら言うと、春香さんは「おほほ」と楽しそうに笑っている。
そんなことより、俺は今、聞きたいことが山ほどある。
「ていうか!なんで俺と西蓮寺さんが二人で一緒に暮らすことになってんだよ!」
「言ってなかったか?ヒバリと心ちゃんは許嫁だぞ?」
「はぁ?聞いてねぇよ、そんなもん」
「そうだったか?それならすまんかった。...今、彼女とかいるのか?」
「いねぇよ」
「好きな子は?」
「いねぇよ」
「じゃあいいじゃないか」
「良くねぇだろ!」
なんで優雅にコーヒー飲んでんだよ!せめてもっと真面目に話してくれ!
そうだ、落ち着け、落ち着くんだ、俺。まずは話を整理しよう。
西蓮寺 心さんと春香さんが来た、春香さんは俺の両親の同級生、西蓮寺 心さんはその春香さんの娘さん、年は俺と同じ、俺と西蓮寺さんは許嫁、そして今、一緒に暮らせと言われている。
What do you mean?(どういうこと?)
そうだ!プラスに考えよう!こんな可愛い子と許嫁だなんて俺って超幸せ者じゃーん!あはははっ!
現実逃避をしていると、また袖を少し引っ張られた。
「私と一緒に暮らすのは、嫌ですか?」
「...」
涙目+上目遣い+服の隙間から見える胸の谷間に少しだけ(胸をガン見していた)見惚れてしまった。
「お兄ちゃんどこ見てるの?」
「はっ!」
妹の声で我に返り、なんとか返事をする。
「西蓮寺さんは俺みたいなよく知らない男と暮らすのに抵抗はないのか?」
「ヒバリさんだから一緒に暮らしたいです!」
「え?なんで?」
気になったので聞いてみると、西蓮寺さんは首まで真っ赤にさせ、モジモジし始めた。
「それは、そのー、あのー...す」
「す?」
「す!」
「す?」
「っ〜〜////!無理です!言えません!」
「なんだよ、気になるじゃないか」
「言えないものは言えません!」
言い合いをしていると、母さんが頭にゲンコツを落としてきた。ついでに父さんにもゲンコツを落とされた。
「いってぇ!!なにすんだよ!」
「女の子に恥をかかすんじゃないよ!」
「何もしてねぇだろ!」
「なんであんたはそんなに鈍感なんだい!」
「はぁ!?誰が鈍感だ!はっきり言われないとわからないだろ!」
「あそこまで聞けばわかるだろ!」
「『す』だけ聞いて『好き』って勝手に変換したらただの自意識過剰野郎だろうが!」
「別にいいじゃないか!」
「よくねぇよ!こんなに可愛い子に好きって言われるなんてありえねぇよ!」
俺がそう言うと、「えっ!?」という驚いたような声が聞こえた。
「ひ、ヒバリさん!」
「うおっ!」
俺は腕を掴まれ、無理やり向きを変えさせられた。
西蓮寺さんは緊張しているのか手に力が入っているので、いつの間にか掴まれた肩に指が食い込むほどだ。
「わ、私って、可愛いんですか?」
「あ、あぁ、可愛いと思うぞ」
そう言うと、西蓮寺さんは顔を真っ赤にさせて倒れてしまった。
本格的に訳がわからなくなってきたんだが?
「ヒバリ、心ちゃんが起きるまでに荷物をまとめなさい」
「...わかったよ。一緒に暮らせばいいんだろ!」
「さすが男の子!覚悟を決めてくれて嬉しいわ!」
「もっと早く決めてほしかったけどねぇ」
「だったらもっと早く西蓮寺さんのことを教えてくれればよかっただろ!」
こればっかりは親のミスだ、俺のせいにされるのはさすがに腹が立つ。
「ほらほら、早く荷物をまとめてきなさい」
「わかったから、押すな。...そろそろキレるぞ?」
俺が若干キレ気味に言うと、父さんと母さんは「やれやれ」といった感じでようやく離れてくれた。
自分の部屋に行き、数分で荷物をまとめ、リビングに戻ると西蓮寺さんが目を覚ましていた。
「目を覚ましたのか、大丈夫か?」
「は、はい!それで、私と一緒に暮らしてくれるって本当ですか?」
「西蓮寺さんが良いならそのつもりだ」
「もちろん良いです!というよりも一緒に暮らしたいです!」
「そ、そうか」
なんでこんなに嬉しそうなんだ?まぁ、俺も親元を離れて暮らす生活に興味があってワクワクしてるし、それと同じようなものだろ。
「あら、けっこうはやく準備出来たのね。そんなに心ちゃんと暮らすのが楽しみなの?」
「この家からはやく出たくなったからだよ」
「そっ!ヒバリと心ちゃんがこれから暮らす家は心ちゃんが案内してくれるから、ちゃんと着いて行きなさいよ?」
「わかったよ」
そして、俺と西蓮寺さんが外に出るために玄関へ行くと、春香さんが「あっ!そういえば!」と言い出した。
「ヒバリくんって心のことを『西蓮寺さん』って呼んでるわよね?」
「はい」
「それじゃあ、心って呼んであげてくれるかしら?」
「ちょっとママ!ヒバリさんは気にしないでくださいね?」
「名前で呼んじゃダメなのか?できれば呼ばせて欲しいんだが...」
「え!?えーっと、じゃあ、名前で呼んでください...」
「それじゃあ改めて、これからよろしくな、心!」
「っ〜〜/////!...はい、よろしくお願いします/////!」
手を出しながら言うと、心は顔を真っ赤にしながらも両手で握り返してくれた。
「あらあら、心ったら♪︎」
「これはすぐにくっつきそうねぇ!」
「心ちゃんは苦労しそうだけどね」
大人達が何か言っているが無視しよう。それより、今日からこんなに可愛い子と一緒に暮らすのかぁ、楽しみだなぁ!
ていうかもう早く外に出よう!さっきからずっとニヤニヤした顔で見られているので我慢の限界だ!
「そろそろ行こうぜ、心」
「はい!そうですね!」
そう言って玄関まで行くと、みんなが着いてきた。
「それじゃあ行ってきます」
「えぇ!?そんなあっさり行くんですか!?」
「さっきのやりとりでもう疲れたんだよ、ほら、行こうぜ」
「あっ、ちょ、待ってくださいよぉ!それでは行ってきます!待ってくださいよー!ヒバリさーん!」
ようやく外に出た俺達は、これから暮らす家に向かった。
その新しい家はまさかの一軒家だった。二階建ての家で、綺麗なオレンジ色の外壁だ。俺の家からこの家はそれほど遠くなくて、1時間もかからずに着いた。学校には10分ぐらいで行けそうだ。
「へぇー、すげぇ綺麗な家だな。それに本当に家具も揃ってるし、俺がここに住まないっていう考えはなかったみたいだな」
「ツバキさんが『ヒバリなら絶対に住む!』と言っていましたよ!」
「ははっ、さすが母さんっていう感じだな...」
母親っていう存在は怖いもんだなぁと思っていると、心がキッチンの方へ向かって行たので着いて行く。
「心って料理得意なのか?」
「わぁっ!ビックリしたぁ、料理はあまりしたことないですよ」
「すまん、そんなに驚くとは思わなかった」
「いえいえ、それではカレーを作りますので待っていてくださいね!」
「手伝わなくていいのか?」
「大丈夫ですよ!料理を作るのが主婦の役目ですから!」
「...そうか、ありがとな」
「いえいえ!」
あえて何も言わない。ま、まぁ、こんなに可愛い子が嫁ならめちゃくちゃ幸せだよな!うん!
かるく現実逃避をしながらキッチンから離れ、自分の部屋に荷物を置くために二階に行く。
「用意周到だな...わかりやすいからいいけど...」
二階に行き、『そういえば俺はどの部屋で寝ればいいんだ?』と思っていると、ドアにネームプレートが掛けられていたのだ。
『ヒバリ』と書かれている部屋に入ると、ベッドや机、タンスや本棚まであった。
「本当にここに住ませる気なんだな...」
もういろいろと疲れたので寝たかったが、心がカレーを作ってくれているので、荷物から服を取り出してダラダラタンスにしまっていると、下から心に呼ばれた。
カレーの匂いがするのでもう出来たのだろう。
「もう出来たのか?」
「はい!食べますか?」
「そうだな、腹が減ったし、今日は色々あったから早く寝たい」
「うふふっ、では入れてきますね!」
「ありがとう」
これが新婚夫婦というものなのだろうか?と思っていると、キッチンの方から「あっ!」という声が聞こえた。
気になったのでキッチンへ行くと、心が涙目になっていた。
「ど、どうしたんだ!?」
「ごめんなさい、ご飯を炊くのを忘れてました...」
目から涙がこぼれそうになっているので、頭をぽんぽんと叩き撫でた。
「ははっ!じゃあ俺が炊いとくから向こうで休んでてくれ」
「で、でも!」
「心はカレーを作ってくれただろ?それなのに俺は何もしなかったじゃないか。これぐらいやらせてくれ」
そう言うと心は嬉しそうな顔をしながら「ありがとうございます!」と言ってくれた。
数分後、米を炊く準備を済ませ、炊きあがるまでの間、心とテレビを見ていた。
「そういえば、ヒバリさんって料理とかしないんじゃなかったんですか?」
「なんで知ってるんだ?」
「ツバキさんから聞きました」
「またあの人か...他に何か聞いたか?」
「不良だって聞きました!今日会うまでちょっと怖かったんですけど、凄く優しい人だったので安心しました!」
その言葉を聞いて、少し固まってしまった。まさか優しい人だなんて言われると思っていなかったので、驚いてしまった。
「くっ、ははは!心って変わってるよなぁ!」
「え!?なんでですか!?」
「俺のことを優しいっていう奴なんか学校にいねぇからだ」
「怖がられてるんですか?」
「まぁな」
「なんで怖がられるようになったんですか?」
「なんでって、知らねぇよ」
「ウソですよね?ヒバリさんは無駄に暴力とか振るうような人には見えませんもん!」
「たしかに暴力主義ではないな、どうせ見た目が怖いからだろ」
「そんなことありません!とてもカッコイイです!」
「っ!?」
カッコイイと言われニヤけてしまいそうになるのをなんとか堪えた。
あぶねぇ、カッコイイなんて言われ慣れてないせいで思いっきりニヤケそうになっちまった。というよりも、早くこの話から逸らそう。
「そういえば心っていつも敬語だよな?」
「そうですよ?」
「なんで敬語なんだ?」
「単純に癖ですね!敬語は嫌いですか?」
「いいや、良いと思うぞ」
「本当ですか!...良かったぁ」
そんな風に話していると、米が炊けた音がした。
「炊けましたね!もう食べますよね?」
「あぁ、すげぇ腹が減った」
「それじゃあテーブルで待っていてください!」
「わかった、ありがとな」
「いえいえ!」
トタトタァと小走りで金髪向かう金髪美少女。とても可愛い。
可愛い子が作ってくれたカレーを今から食べるということが嬉しくて、ニヤケる顔を落ち着かせながらイスに座ると、心がカレーを持ってきてくれた。
「すげーいい匂いだな!うまそう...だ...え?」
「えへへ、そうですか?初めてにしては上手く出来たと思っていたんですよぉ!」
「そ、そうか...」
カレーって青色だっけ?俺が知ってるのは茶色なんだが...そうか!最近流行りのスライムカレーというやつか!なるほど、心は変わった物を選んでくるな!うん!
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきまーす!」
心がジーッと俺の顔を見てくる。美味しいかどうか心配なのだろう。
たとえ不味くても頑張って作ってくれたんだ、全部食べるさ!
パクっ
「うっ!」
なんだこれは!?生臭くてしょっぱくて甘くて苦くて所々ガリガリとした食感している。
「どうですか!?美味しいですか!?」
心がキラキラとした表情で俺を見てくる。そんな綺麗な目で俺を見ないでくれ...
「う、美味いぞ」
「本当ですか!?やったー!」
あぁ、胸が痛い...罪悪感が半端ない...
心は喜びながらスプーンを持ち、カレーをすくって食べた。
その瞬間、心の顔が笑顔のまま固まり、スプーンを落とした。
「ど、どうした?」
「...」
心が何も言わないので心配になり肩を触ると「ピクっ」と動いた。
すると、涙目で俺を見た。
「...ヒバリさんはウソつきです」
「なんのことだ?」
「すごくまずいじゃないですかー!!時にウソは人を傷つけるんですよ!」
「せっかく作ってくれたものをまずいなんて言えねぇよ!」
「それでもこれはまずいって言ってくださいよぉ!!」
「言わねぇ!ぜってぇ言わねぇ!」
「あっ!こんなの食べちゃダメです!」
俺がカレーをガツガツ食べ始めると、心が食べるのを止めようとしてきた。それでも俺は食べ続け、お皿にあった分を平らげた。
「なんで全部食べちゃうんですか!」
「せっかく作ってもらったのに残すわけねぇだろ、うぷっ」
「もう!顔色めちゃくちゃ悪いですよ?これ飲んでください!」
「あぁ、ありがとな」
「...こちらこそありがとうございます」
「これから美味しいもん作れるように一緒に頑張ろうぜ」
「はい!」
それから心は皿にまだ残っているカレーを食べることにしたみたいだ。
俺が食べきったのを見て、『私が作ったものですからちゃんと食べます!』と涙目で宣言し、今はもう涙を流しながら食べている。
「俺も食べようか?」
「いいです、ちゃんと全部食べます...」
「無理すんなって、パクっ、うっ!」
「無理しないでください!」
二人で交互にカレーを食べていると、数分で完食することができた。
「うぅ、ヒバリさんはやっぱり優しいですよぉ」
「これくらい普通だろ。そうだ、風呂に入ろうぜ」
「え!?」
「...言っとくけど、一緒に入るつもりはないから安心してくれ」
「え、あ、そ、そうですよね!やだ、私ったら何考えてるんだろう!あははっ!...はぁ」
ショックを受けているように見えるのは俺の目がおかしいんだよな。大丈夫、わかってる。自意識過剰って言いたいんだろ?あぁそうだよ!思うだけならいいだろ!
「先に風呂入るか?」
「ヒバリさんが先でいいですよ〜!私、1時間ぐらいゆっくり入っちゃう人なんで!」
「そうか、じゃあ入ってくるわ」
「はーい!行ってらっしゃいです!」
同級生に行ってらっしゃいと言われるのは少し照れくさいもんだなと思いながら風呂に入った。
俺はのぼせやすい体質なので15分ぐらいであがった。
「心ー!風呂あいたぞー」
「はーい!では行ってきますね!」
「おう」
アイスでも買いに行くか。
そう思い外に出ると、家の前に一年の時のクラスメイトの成田康介なりたこうすけがいた。
「げっ、花咲!?」
「なんだよ、『げっ』て」
「いや、その、何でもない!じゃぁな!」
「あぁ」
これが普通だったんだけどなぁ、心のせいでどれが普通なのか曖昧になってしまった。
「まぁいいか、コンビニにでも行こう」
コンビニには数分で着いた。家の位置が中々いい場所にあるので過ごしやすいな。
「あざっしたー!」
アイスを4つ買った。心にはどれか選んでもらおうと思いながら家へ帰っていると、また一年の時のクラスメイトに出会った。
「やべ!花咲だ!」
「逃げろ!見つかるな!」
「ばかっ!声でけぇよ!」
聞こえてるんだよなぁと思いながら家へ帰る。
「ただいまー」
風呂場からシャワーの音が聞こえるので、まだ風呂にいるんだろう。
「ふぅ、今日はいろいろな事があったなぁ。俺はこのまま心と結婚すんのかなぁ」
「え!?」
ソファに座っていたが、予想外の声に驚いてしまって落ちてしまった。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だ」
「ところで、あのぉ〜」
「そうだ、アイス買ってきたんだ。食べるか?」
「え、あ、はい!食べます!」
「じゃあ選んでくれ」
ふぅ、なんとか話を逸らせたな!だいぶ無理やりだったけど!
「このぶどうのアイスがいいです!」
「じゃあ俺はこのバニラを食べよ」
二人でスプーンを持ちながらソファに座った。隣同士で。
風呂上がりのせいか心がすげぇ可愛く見えるしいい匂いがする、って、バカか俺は!ただの変態じゃねぇか!
煩悩退散!と念じながらアイスを食べていると横で「おいしいですぅ〜!」と美味そうに心がアイスを食べている。
「そんなに美味いか?」
「はい!一口どうぞ!はい、あーん!」
「え?あ、あーん」
パクっ
たしかに美味いな、これ。また今度見つけたら買うか!
「美味しいですよね!」
「あぁ、美味い!」
「ふふふっ!」
嬉しそうにアイスをすくって食べようとすると、顔を真っ赤にして固まった。
「どうした?」
「か、か、かかか、関節、キス...」
「ん?あぁ、そうだな。気付いてなかったのか?」
「...はい」
「言えばよかったな、すまん」
「いえ!私のせいなので気にしないでください!」
そう言って、パクっ!と食べると、また顔を真っ赤にした。
「心ってけっこうドジっ子だよな」
「はぅっ!気にしてるのにぃ...」
「そ、そうか、...すまん」
「あれ?そういばヒバリさんって中々謝らないって聞いたんですけど」
「母さんに聞いたのか...俺はちゃんと自分が悪いと思ったら謝るよ」
「ということは、自分が悪いと思わなかったら謝らないということですか?」
「あぁ、謝る必要がないからな」
そう言ってアイスを食べ終え、洗い物をする。
「私がやりますよ!」
「俺がやるからいいよ。もう夜も遅いし寝てくれてていいぞ」
「それは嫌です!それでは私はお皿を拭きます!」
「そうか、ありがとな」
「ヒバリさんはたまにツバキさんが言っていたことと全然違うことをしますね」
...いったい母さんは心に何を吹き込んだんだろう?
気になるが、まぁいいか。もう眠いし、洗い終わったらさっさと寝よう。
お皿が少なかったのですぐに洗い終わった。
「はぁ〜、寝よ」
「ふふふっ、そうですね!」
二人で二階に行き、部屋の前まで着いた。
「それじゃあ、おやすみ」
「はい!おやすみなさい!」
部屋に入り、さっそくベッドで寝転んだ。
「明日からはちゃんとトレーニングするか。今日サボった分、明日はいつもよりハードめでやるか」
そのまま、俺は明日のトレーニングメニューを考えているといつの間にか寝ていた。
次の日から俺と心は普通に過ごした。
それでわかったこと、それは、心がめちゃくちゃドジで天然であることだ。
朝は寝ぼけているのでよくつまずくし、塩と砂糖をよく間違えるし、いつも無防備など、数えきれないほどだ。
でも俺はそんな生活をなんやかんや楽しんでいた。許嫁が心で良かった。性格の悪い人だったら俺はすぐにこの家を出ていただろう。
そして学校の始業式の日がきた。内容はクラス発表と校長の話を聞くなどだろう。
普通、クラス発表は仲の良い子となりたいものだろうが俺にはそういう友達がいないのでどうでもよかった。
「おーい、心ー!行くぞー!」
「は、はい!今行きます!」
俺が心と登校していると、周りの学生にめちゃくちゃ見られた。
理由は2つ、両方単純なことだ。1つ目は心がものすごく可愛いから。2つ目は俺が女子と歩いているからだ。
「あの子すっげー可愛いな!」
「でも花咲と一緒だぞ!」
「あの女の子、弱みでも握られてるのかな?」
「うわー花咲ならやりそう」
「あの子かわいそう」
「花咲さいてーね」
これぐらいの陰口は言われ慣れているが、心のことはすぐに学園中に広がりそうだなぁと思っていると、横で心が頬をぷくぅと膨らましていた。
「どうした?」
「皆さんがヒバリさんの悪口を言っているからです!」
「聞こえてたのか、まぁ気にすんな。こんなもん言われ慣れてるから」
「でも!」
「反論したらもっとややこしくなるだろ?そんな面倒事はごめんだ」
「うぅ、わかりました...」
渋々といった感じに納得してくれた。この間にも周りではもう変な噂が流れ始めていた。
学校に着くと、すでにクラスが発表されていた。なので、心と一緒にクラス表を見に行くと、なんと一緒のクラスだった。
「やったー!ヒバリさんと一緒のクラスですー!」
「そうだな」
「ひょっとして、私と一緒のクラスは嫌ですか?」
「そんなこと思ってねぇよ、ただな、周りの目が鬱陶しくてな」
そう言って周りにいる奴らを睨むと、全員目を逸らして校舎の方へと慌てた様子で歩いていった。
「ヒバリさん!」
「ん?なんだ?」
「そんなことするから周りから不良だとか言われるんですよ!」
「別にいいだろ、何もしてなくても言われるんだから」
「でも!」
「ほらほら、まずは職員室だろ?行くぞー」
「あっ、待ってくださいよー!」
それから職員室に着くまでの間、すれ違ったり近くや遠くにいる生徒達は心のことを見ている。
素直に鬱陶しいです!
職員室に着き、近くにいた女の先生を呼ぶとあからさまに嫌な顔をされた。
「な、なんで花咲くんが西蓮寺さんと一緒にいるの?」
「なんでもいいだろ?それじゃあ俺は先に行ってるからな」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って職員室から出て自分のクラスに向かった。俺のクラスは2年1組だ。校舎の3階にあるのでまぁまぁ階段を登らないといけないのが少し面倒だ。
教室の中に入ると、みんなが俺を見て嫌な顔をした。それを気にせずに自分の席に座ってHRの時間を待つ。
数分後、先生がきた。
「おーい、全員席に座れよー」
先生が言うとみんながすぐに自分の席についた。
この先生の名前は、佐藤 アキラ。26歳の独身男性だ。ちなみに、この先生は俺とこの学校で一番仲がいい。
「はい!それじゃあまずは転校生が来ているのでその紹介をするぞ!西蓮寺さーん、入ってきてくれ!」
「はい!」
心が教室に入る前に耳を塞いだ。この後のことをなんとなく予想したからだ。
そして、心が教室に入った瞬間、みんなが叫んだ。何を言っているのか聞き取れないがたぶん、「かわいいー!」とかだろうな。
心も先生もうるさそうにしている、かわいそうに。
「そ、それじゃあ西蓮寺さん、自己紹介をお願いします」
「西蓮寺 心と言います!皆さんこれから一年よろしくお願いします!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」
なんでただの自己紹介で吠えるんだよ!どんだけ男子は気合い入ってんだよ!
「全員静かにしろよー!西蓮寺さんの席は...あった、この席の一番後ろに怖い男子がいるだろ?そいつの隣だ」
「ヒバリさんのことですか?」
「ん?なんだお前達、知り合いか?」
「はい!」
「そうか!そうか!それじゃあ西蓮寺さんの学園の案内はヒバリに任せるぞー!」
「了解だ」
「「「「「「「えぇーーーー」」」」」」」
「あ゛ぁ゛?」
「「「「「「「.....」」」」」」」
「こらこら、みんなをビビらせるんじゃない!」
「別にビビらしてねぇよ」
「ったく、お前ってやつは...西蓮寺さん、あんなやつだが良いやつだから仲良くしてやってくれな」
「ふふふっ、知っていますよ!」
心はそう言うと俺の隣の席にきた。
「ふふふっ、隣同士ですね!」
「そうだな」
「また素っ気ないです...」
「いつもこんなもんだろ?」
「まぁそうなんですけどね、今日くらいはもっと構ってくださいよぉ」
「考えとくよ」
「本当ですか!?」
こんなやり取りをしていると、みんなが俺達のことを見ていた。
「は、花咲と普通に話してるぞ!」
「くぅー!あんな可愛い子と仲良くしやがって!」
「私も西蓮寺さんと話したいのにー!」
などの声が聞こえてくる。ていうかみんな佐藤の話を聞けよ。
そんなことを思っていると、佐藤が俺のことを呼んできた。
「花咲!ちゃんと話せる友達が出来て良かったな!」
「うるせぇよ!んなことより、さっさとこの後のことを話せよ!」
「はいはい、照れちゃってかわいいなぁ〜」
「てめぇ、マジでぶっ飛ばすぞ?」
そう言うとみんなが慌てて佐藤を急かし始めた。
「先生!早くこの後のことを聞きたいです!」
「そ、そうそう!早く早く!」
「ん?そうか?じゃあこの後は始業式をやって...」
と、やっと真面目な話になったのでボーッとしていると、心につんつんとつつかれた。
「どうした?」
「先生と仲が良いんですね!」
「佐藤はほとんど俺担当の先生だからな」
「え!?どういうことですか!?」
「こらー、花咲!人の話は聞いとけよ!」
「なんで俺だけなんだよ」
「西蓮寺さんは女の子だからいーの!」
「うぜぇ」
俺が機嫌悪そうに言うと周りがまた佐藤のことを急かした。
去年、体育の先生とおもいきりケンカをしたことがあるので、みんなはそれを警戒しているのだろう。
「それじゃあ体育館に行くぞー」
「「「「「「はーい!」」」」」」
みんなが返事をして体育館へ移動していくのでそれに着いて行く。体育館に行く途中でも心はみんなから見られている。
それは始業式が始まっても続いたが、心はそれに気付いていないようだった。
本当に無防備だよなぁと思っていると、始業式が終わっていた。
「ヒバリさーん!教室に戻りましょー!」
「そうだな」
心と一緒に教室に戻っていると、後ろから肩を叩かれた。
「お、おい!その人から離れろ!」
「あぁ?誰だよお前」
「僕は金木 優斗かねきゆうとだ!去年一緒のクラスだったろ!?」
「あぁー、確かにいたな。で、何の用だ?」
「噂で聞いたぞ!お前はその人の弱みを握って脅してるんだろ!今すぐにその人から離れろ!」
すると、俺らを囲むように周りの奴らが集まった。
「心、こんな奴無視して早く行くぞ」
「え?あ、はい!」
「みんな!絶対にそいつを逃がすな!」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
「西蓮寺さん!今すぐに君をその男から解放してあげるからね!」
うぜぇー、マジでうぜぇー、もういっそのこと離れるか。
「心、また後でな」
「え?」
俺はそう言って無理やりこの場から逃げた。
「ちょ、待ってください!ヒバリさーん!」
「ふぅ、いくら不良といってもこの数からは逃げるか、プライドのない奴め!さぁ、西蓮寺さん、これからはあんな男が近付かないように僕が守ってあげるからね!」
「え、えー...」
俺は少し離れた場所で、さっきまでいた場所の確認をすると、心がものすごく嫌な顔をしていた。あんな表情見たことないぐらいだ。
教室に戻って寝ていると、頭を何度もつつかれた。
「誰だ?」
「私だけ置いて逃げましたね!」
「穏便に済んだだろ?」
「そうですけど!すごい迷惑なんですけど、あの人達!」
「俺も面倒事はごめんだ。だから心も適当に言ってやり過ごしてくれ」
「そんなぁ...」
心が残念そうにしていると佐藤が来た。それを見たみんなは席に座り、話を聞く準備をする。
「10分後に教科書を配るからそれまでは好きにしてていいぞー!」
佐藤がそう言うと、クラスのみんなが心の周りに集まった。俺側には誰も立たずに。
それでもうるさいので教室から出ると、金木に出会った。
「花咲!お前、二度と西蓮寺さんに近付くんじゃないぞ!」
「...」
「おい!聞いているのか!」
「あ゛ぁ゛?」
「ひいっ!...こ、怖くなんかないぞ!お前は僕から逃げた弱虫だからな!」
「ほぅ、じゃあ...」
そう言って近付き、ドンッ!と壁を足で蹴った。足ドンというやつだ。
「ひ、ひぃっ!」
「怖くないんだろ?それなら殴ってみろよ。ほら、ここ」
自分の頬を指でトントンと叩いて挑発するが、金木は腰が抜けて動けないようだった。
「ふんっ、俺とお前、どっちが弱虫なのかわかったか?」
「...」
「震えすぎて声もでてないじゃないか。あぁー、それと心が言ってたぞ『迷惑だ』って」
「そ、そん、なぁ...」
ガックリと手を廊下につけてショックを受けている。
すると、気付いたら周りには人が集まり始めていた。ケンカが起きたりすると、止めに入らずに周りで見る、それは学校ではよく起きることだろ?
まずいな、早く逃げないと先生が来てしまう...
「花咲ー!またお前かー!」
「げっ、もう来たのか!」
「待て!逃げるなー!」
「もう反省文はごめんなんだよー!」
「ならケンカをするんじゃなーい!」
「好きでやってる訳じゃねぇの知ってんだろ!」
「こっちにも教師っていう立場があるんだよ!」
「んなもん、知るか!」
そう言って廊下を走っているとチャイムが鳴ったので自分の教室まで戻った。
「ヒバリさん、何してるんですか?」
「さっき金木って奴に絡まれただろ?そいつと話し合いをしてたら佐藤に追いかけられたんだよ」
「はぁはぁ、花咲、お前、あんだけ走って、息ひとつ乱さないのか、はぁはぁ」
「鍛えてるからな」
「くそっ、俺も運動するか、はぁ」
それから息を整えた佐藤は教科書を配り始めた。
それから数10分で教科書を配り終えた佐藤が「もう帰っていいぞー」と言うと、また心の周りに人だかりができた。
「心ー、先に帰ってるからなー」
「え!?待ってくださいよー!皆さん通してください!」
心がそう言うと、人一人が通れる道が出来た。
「ありがとうございます!ヒバリさーん!」
「ん?なんだ、来たのかって、はぁ!?」
なんと心の後ろに数10人のクラスメイトがいたのだ。
「花咲ー!お前、西蓮寺さんとどういう関係なんだよー!」
「絶対に逃がさないよ!」
「みんな!囲いなさい!」
先回りをしていたのか目の前に10人ぐらいのクラスメイトが来た。
逃げようと思えば逃げれるが、誰かがケガをしてしまう可能性があったので大人しく捕まることにした。
そこからはもう質問攻めだ。俺のことが怖いんじゃなかったのか?と聞きたいほど近寄ってくる。
これほど面倒な事は初めてだった。
最初に言っていた面倒事とはこの事だ。長かっただろ?でも最初に言っておいたんだから許してくれな。
「西蓮寺さんとは付き合ってるの!?」
「西蓮寺さんのこと脅してるって本当なの!?」
「西蓮寺さんと...」
こんな風に答えてないのにも関わらずに次々と質問をしてくるし、人が集まりすぎて蒸し暑いしでだんだんイライラしてきた俺はおもいきり地面を踏むと、ドンッ!という音が廊下に響いた。
その音でみんな我に返ったのか俺から離れた。
「じゃあ俺は帰るから」
「あ、あのー」
「あぁ?」
「ひぃ!...1つだけ、聞きたいことがあるんですが...」
「なんだよ」
「西蓮寺さんとはどういう関係なんですか?」
「ただの許嫁だ。答えただろ?もう俺に群がってくるんじゃねぇぞ」
そう言って帰ろうとすると、後ろから「「「「「「「えぇーーーー!!!!」」」」」」」と言う声が聞こえたが、無視だ無視。
下足場まで行くと、心がいつの間にか着いて来ていたことに気が付いた。
「いつの間に来たんだ?」
「ヒバリさんが行ってからすぐにですよ!もう!また置いていくつもりでしたよね!」
「まぁなー」
「まぁなー、じゃないですよ!」
「ははっ、じゃあ帰ろうか」
「はい!」
こうして、俺と心の学校生活が始まるのであった。
などと言ったが、これから始まるのは俺とドジな心が一緒に暮らしていく話だ。まぁ、気が向いたらまた来てくれ。
「ヒバリさん?ボーッとしてどうしたんですか?」
「ふっ、これからも面倒事に巻き込まれそうだと思ってな」
「それは嫌ですね!」
「そうだな」
「素っ気ないですー!」
こうして、俺と心は一緒に家に帰って昼飯を作って食べた。
ちなみに、心の料理の腕は一歩も進歩していない...
ドジな女の子と同棲生活 sirokuro @sirokuroran99
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