翻訳は創作の夢を見るか? ラモーナ・アンドラ・ザビエル インタビュー
2018年8月、あらゆる場所でド派手な内輪的盛り上がりをぶち上げて見せるインターネット・コミュニティの片隅に、突如彗星のように現れた新進気鋭の天才翻訳家ラモーナ・アンドラ・ザビエル! 彼は一体何者なのか? そして彼が翻訳し紹介するエメーリャエンコ・モロゾフとの関係とは? 彼がたびたび口にする〈ナゴヤ〉とは一体なんなのか? 文学の核心に迫る、堂々4000字いくかいかないかくらいのインタビュー!
・インタビュアー:樋口恭介(以下樋口)
・インタビュイー:ラモーナ・アンドラ・ザビエル(以下樋口)
***
◾︎小説とは、逆立ちしたケイン・コスギである
樋口:こんにちは樋口です。
樋口:こんにちはラモーナです。どっこいしょ。人間三十路にもなると自然と「どっこいしょ」といった言葉が口をついて出るようになります。
樋口:はい。ラモーナさんとお会いするのは初めてですし、失礼ですが、私も含めた読者の多くは、ほとんどラモーナさんのことを知らないと思います。簡単にでかまいませんので、最初に自己紹介をしていただいてもよろしいでしょうか。
樋口:なるほど、私は〈謎のヴェールに包まれた翻訳家〉というわけですね。フフ……わかりました。それではご説明いたしましょう。
樋口:はい。よろしくお願いします。
樋口:はい。私はラモーナ・アンドラ・ザビエルと申します。生まれも育ちもアメリカで、今はナゴヤという都市に住んでいます。同姓同名の音楽家で、Vektroid? というユニットで活動している人がいるのですが、本名でGoogle検索をかけると、最近はこの人よりも私のほうが上位にヒットするのがひそかな自慢となっています。まあそうは言っても自慢をする相手というか、友達はいないので、実際にはインターネットでイキってドヤるくらいしかやれることはないのですが……。普段は翻訳家をしています。エメーリャエンコ・モロゾフという作家がいるのですが、その作家の短編小説を勝手に訳してインターネットに発表しています。
私が翻訳したモロゾフ作品はまだ本にはなっていないのですが、けっこう評判もよいという噂があってもおかしくないレベルで面白い作品ばかりだと思いますし、そろそろ紙で読みたくてウズウズしている読者たちからの、単行本化を求める声もそこら中で上がってきているのではないかな、という考えが強まってきていて、私の中ではかなり盛り上がりを見せてきていますよね。
◾︎屁で書かれた小説たち
樋口:ラモーナさんが活動を開始されたのっていつからなんでしたっけ?
樋口:2018年ですから、今年ですね。今年の8月にツイッターのアカウントをとって、そこで翻訳作品を投稿したり、ふつうにツイッターをやったりしています。
樋口:今ってフォロワー何人くらいなんでしたっけ?
樋口:50人くらいですね。
樋口:フォロワー50人ですと、インターネット戦闘力的にはかなり微妙というか、失礼かもしれませんが、最弱の部類ですよね。大変不躾なことを言うようで、すみませんが……。
樋口:いや、でもツイッターにおいてインターネット戦闘力を測るときってフォローとフォロワーの比率が大事だと思ってまして、今はフォローが1人なので1:50と考えるとすごくないですか?
樋口:ところでラモーナさんが翻訳作品をインターネット上に投稿され始めたころだと思うのですが、ツイッターに「Big Brother is watching you」というフレーズを投稿されているのを拝見しました。ジョージ・オーウェルがお好きなんですか? 『1984年』は、私は、大変お恥ずかしいことに未読なのですが……。あっ、『動物農場』なら読んでいるのですけれども……。
樋口:(俺はどっちも読んだことねえ)そうですね。ジョージ・オーウェルは父親が好きで、家の本棚には全集がありました。たしか、初めて読んだのは3歳のときだったと思うのですが、とても現代的な内容で、忘れがたい衝撃を受けた記憶があります。それ以来、私の心をとらえて離さない「Big Brother is watching you」という言葉を、私は座右の銘にしているのです。
ところで、ハルキ・ムラカミの『1Q84』は読んだことは(私はないのですが)ありますか?
樋口:(読んだことねえ)ええ、『1984年』へのオマージュを捧げた小説は古今東西多くありますが、日本のものでは最も広く知られ、多く読まれている作品だと思います。後期村上春樹、つまり『ねじまき鳥クロニクル』以後を代表する大作ですね。アメリカでもベストセラーになったと聞いています。
樋口:(聞いたことねえ、ねじまき……なんだっけ……ねじまき……)そうですね。今おっしゃっていただいた作品は、一般読者に限らず、アメリカの翻訳者たちのあいだでは翻訳を考えるうえでよく言及される作品ですし、重要な作品だと思います。トマス・ピンチョンの『重力の虹』に匹敵する、骨太の歴史性を導入することで政治と文学を接続した傑作だと思います。
樋口:(やべえ、『重力の虹』はめちゃくちゃ読んだふりしていろんなところでそれっぽく言及しているものの内容はほとんど忘れており、今では冒頭が「キーン」とかいうアホっぽいフレーズで始まるところがクソおもしれえと思います以外の感想がねえという困った状態に陥ってしまったぞ)今、「ピンチョン」という名前が挙がりました。オーウェルにとどまらず、現代文学に視野を広げると、最も影響を受けた作家というのは誰になるのでしょうか。
樋口:(〈現代文学〉ってなんだよ? 現代の文学? 最近読んだ小説を聞かれてるのかな? 百田尚樹とか?)樋口さん。そもそも樋口さんは〈文学〉というものをどのようにお考えでしょうか。
樋口:文学、ですか。
樋口:はい。文学とは時代を映し出すあらゆる表象のうちに見出すことができます。そして、現代は混迷の時代であり、その混迷の中心はインターネットにあります。ですから、現代において最も文学的と言えるものはインターネットの最深部にあり、そこで蠢いている、まだ誰も名指すことのできない運動が〈現代文学〉なのだと思います。もっとも、〈インターネットの最深部〉というのがなんなのかは私にもよくわからないのですが……。
◾︎ナゴヤは全ての都市である、とモロゾフは言った
樋口:なるほど、よくわかりました。次にエメーリャエンコ・モロゾフについてお伺いします。はじめに、ラモーナさんがモロゾフという作家を知ったきっかけについて教えていただけますか?
樋口:モロゾフの作品に『超越時空都市ナゴヤ』という大作があるのですが、それがきっかけですね。ご存知ですか?
樋口:(ふつうにガチで知らねえ)恥ずかしながら読んだことはないのですが、聞いたことはありますね。このあいだ、脚本家の笹原一彰氏(という人がいるかどうかは不明なのですが)にインタビューしたのですが、氏も言及されていて、傑作だとおっしゃっていたのが印象的です。
樋口:笹原さんにインタビューされたのですね。これは奇遇ですね。私は彼とは旧知の仲でして、毎年年末になるとホームパーティに呼ばれ、文学談義に花を咲かせていますよ。彼にモロゾフの『超越時空都市ナゴヤ』を勧めたのは、ほかでもない私なのです。
樋口:(笹原、いるんだ)『超越時空都市ナゴヤ』というのはどういう小説なのでしょうか。
樋口:実は私も読んだことがないので説明するのが難しいのですが、一言で言えば、「過去・現在・未来に存在した/存在する全ての都市を、時空を超えた都市〈超越時空都市ナゴヤ〉が統合する」というものです。
物語は2023年から始まります。異常気象により一年のほとんどの日が気温50℃以上の猛暑に見舞われるようになった超盆地都市が、暑さを避けるために地下都市を発展させてゆくのですが、地下深くに潜っていく過程でゆっくりと独自の科学文明を築き上げていき、2800年代になると、時空を形成する全ての素粒子の組み合わせを人為的に操作する技術を開発します。
ナゴヤはその技術を用いて隣国の――これまた超盆地都市であった〈ギフ〉を併合し――ニホンからの独立を宣言します。ニホンはこれを認めず、ナゴヤはニホンに対して独立戦争を開始するのですが、そこからがすごくて、ナゴヤはトロイやアトランティスなど、かつて存在した様々な都市や、実際には存在することのなかった架空の都市に姿形を変えながら領土を増やし、最後には〈全ての都市の可能性〉を統合する超越的生命体となって、宇宙の外に向かって拡張してゆくのです。
樋口:そうなんですね。最後に一言、読者に向かって何か言いたいことはありますか?
樋口:もう最後ですか、早いですね。最後となりますが、私が名古屋に引っ越してきてからもう3年ほど経ちますが、すごく良い場所ですよ。たしかに夏は暑いんですが、街のつくりはコンパクトでなんでも徒歩圏内にあるし家賃は安いし。東京の家賃相場に比べて70%くらいかな? 名古屋には山口組の事務所やらなんやらがあったりだとか、住んでると言うと決まってなんかビミョーな反応をされますが、本当はそんなに治安も悪くなくて、ベビーカーで行ける場所も多いし、住むには良い場所だなと。嫌な思いはしたことないですよ。おすすめです。
樋口:今日はありがとうございました。これからの翻訳作品も楽しみです。ラモーナさんのますますのご活躍を期待しています。
ライトウィング・ペイトリオッツ・コリアンファッカー――私家版エメーリャエンコ・モロゾフ短編集 ラモーナ・アンドラ・ザビエル @nunnnun
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