短編A

東堂栞

魂の重さ

「助手よ、魂の重さはいくつだと思う?」

「うーん……二百グラムくらいですかね?」

「その根拠は?」

「心臓がそれくらいの重さですから」

「なるほど、助手は心臓に魂があると考えるわけだ」

「博士はどう思っているんです?」

「私は魂の重さは千グラムちょっとだと思う」

「その根拠は――ああ、だからこんなの作ったんですね」


 その通り! と自慢げに博士は胸を張った。助手の少年と博士が見るガラスの向こうの実験室の中には柵を隔てて二人――おそらく二人――の人間がいた。


 一人は一つの体に頭が三つあった。男、女、子ども。喋っているのは真ん中の男だけで横にくっついてる女と子どもはぐったりしていた。男は「早く殺してくれ」しか言わないが一応生きているようだった。

 一人は一つの頭に体が二つあった。首から下に男の体と女の体が背中合わせで二つあるのだ。二つ体がある頭も「早く殺してくれ」しか言わないが一応生きているようだった。


「助手よ、一つ賭けをしようじゃないか。賭けの内容はずばり『魂の重さはどこで決まるか』だ。ちなみに私は『脳みそで決まっている』に賭けるよ」

「良いですよ。それじゃあぼくは『心臓で決まっている』に賭けます。ところで、どうやって殺すんですか」

「このボタンを押すと部屋の中に毒ガスが出される」


 博士がドクロのマークが入ったボタンを押すとガラスの向こうの部屋にいた二人(脳みそで数えるなら四人とも言えるし、心臓で数えるなら三人とも言えるが、暫定的に二人とする)が苦しみだし、やがて動きが止まった。


「うむ、では計測といこう。三つ頭の方は――」

「――二百グラムの減少、ですね」

「うーん……二つ体の方は千二百グラム減っているぞ。これはどういうことだ?」


 脳みそで決まるなら二つ体の計測結果が正しいが、心臓で決まるなら三つ頭の方が正しい。


「計器の故障とか」

「それはあり得ない。この日のためにきちんと準備した」

「そもそも、一人分で計測した方が正確なんじゃないですか」

「それでは駄目だ。魂の重さを計測するのは『体のどの部分から魂が失われるのか』を調べるためなのだ。こうしてパーツを増やしたり減らしたりする工程は必要なのだ」

「それじゃあ、他のところに魂があると考えるべきですね」

「そうだな。次は手を増やした人と、足を増やした人で試してみよう」


 助手と博士は色々パーツを増やしたり減らしたりした結果、魂の重さも、魂がどこにあるのかも分かったようだったが、その記録を残す前に二人は死刑になってしまったので、死んだ二人以外は誰も知らないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編A 東堂栞 @todoshiori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ