試し書き

鈍足のカッパ

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 視界を埋める灼熱の紅蓮、立ち昇る黒煙は、今自分のいる場所を燃えているのだと認識させられる。寸分前までそこは、白磁広がる何もない、静かで、孤独な場所だったのに。

 どことなく向けていた視界の端に、黒い鞭状の物体が映る。一見しただけでも長く、先は鋭利な刃の如く、大きくしなるそれの面には鉤爪のようなものがいくつも連なっている。

 明らかに凶悪なその物体が、炎を掻き分けながら彼女に迫る。


 彼女は痛みを覚悟した。首、腕、脚に着けられた禍々しい枷が動きを封じ、避けようと動くことすらままならないのだ。

 一瞬目を閉じたが、すぐに開ける。今の自分では、あれを受けて生きていられる保証は無い。しかし、彼女の眼にはそれを意に介さぬ光が宿っていた。それは、自分が助かる未来への確信にも似た光。


 何故なら――――


 バチンッという明瞭な破裂音が響き、ジュゥゥゥと何かの焼ける音が耳に届く。


「…怪我、無い?」


 黒い鞭状の――尻尾を片手で止めた人影は肩越しに振り返り、優しく声を掛けてくる。当の本人は血塗れになっている筈なのにも関わらず。


『………っ』


 言葉に込められた意味を読み取り、『大丈夫』と声を発しようとするが、首に着けられた枷がそれを妨げる。


 彼女は目の前の人影――黒い全身鎧を着た少年に向けて首肯する。


「そっか、良かった」


 端的に気持ちだけを返した彼は、ビチビチと蠢く尻尾を両手で持ち、手が焼け焦げることを厭わず握り込む。


「ぉぉぉぉぉ―――おおおああああああああ!!!!!」


 それは痛みに対しての叫びか、はたまた気合の雄叫びか。


【ズガァァァァアアン!!!】


 炎を風圧で吹き飛ばしながら、尻尾の先にいた何かをハンマー投げの要領で回転した後、一番近い壁に叩き付ける。


 煙立つ手を「あっちっち」と意味もなくブンブンと振り、深呼吸を一つ。首をゴキっと鳴らして炎が分かれた先を睨みつける。


 その先でゆっくりと…底知れぬ不気味さと風格を漂わせながら立ち上がろうとしているのは、黒い怪物。


 牛のような二本の曲角と身長よりも長く凶悪な尻尾を持ち、黒いツルピカな光沢が目立つ刺々しい殻に覆われた体は赤熱し、陽炎が立ち昇っている。

 そいつは、壁を抉る勢いで叩き付けられたのにも関わらず、ダメージを感じさせない様子で少年の様子を伺っていた。


その黒い外殻には、傷一つついているように見えない。


 見るからに異常であり、人智を越えた化け物に対して、少年は地面に刺していた剣を引き抜き切っ先を向ける。その目には既に覚悟が宿っており、彼は今も、魂に受けた一つの願い―――使命を果たす為、否。己の望みを果たす為に思考を巡らせている。


「さあ来いよ焦げ悪魔。言っとくけど、僕はしぶといぞ」




これは、救いの物語。


(この物語を大幅改変したものを現在執筆中)


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試し書き 鈍足のカッパ @donsoku0303

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