第3話 産まれた時から。
事務所で爪を切りながらお笑い番組を観ていた。最近はどうにも暇で、若い衆に仕事を投げてやると俺の仕事が無くなる。世の中、平和らしい。
「おめでとうございますっ!」
ふいに現れたソイツはありふれた祝辞をほざいた後、非常に不愉快な言葉を続けた。
「なんだ、ヤクザか・・・」
「テメェ、喧嘩売ってんのか、あ?」
「いやその前に驚かないんですか?私が何に見えますか?」
「妖精だろ、羽が生えてるし」
「はい、妖精ですが、何故貴方は驚かないんですか?」
「この商売を長く続けてるとな?妙なもんや不思議なもんをよく見るんだ」
「へぇ・・・ヤクザのくせに」
「だからよっ!いちいちヤクザとか侮蔑するようなこと言うんじゃねぇ!」
「後学のために教えていただきたいんですが、貴方が見た妙なもんとか不思議なもんって何ですか?」
「UFO」
「ありがちですが、この世界に、いやこの星にたどり着いた異星人はいないんですよ」
「そんなこと知ってるわ。俺が見たのは”Unidentified Flying Object”だよ、文字通り未確認飛行物体ってことだわ」
「へぇ、ヤクザのくせに英語知ってるんだ」
「いちいち突っかかるな、おい。ヤクザに怨みでもあるのか?」
「恨みを買ってないヤクザっているんですか?」
「いや・・・まぁ・・・恨みを買うような仕事ばかりだしな、いねぇな、善良なヤクザってもんは」
「でしょ」
「しかしだな、妖精に怨まれるようなことはしてねぇぞ」
「貴方がしていなくても怨みは買うんですよ」
「知るか。大体、妖精に怨みを買うとかどこの世界の話だよ」
「私の母がヤクザに捕まって」
「何だその有能な陰陽師みたいなヤクザは」
「三日三晩、その身体をもてあそばれて捨てられたんですっ!」
「いや、その前に妖精の”母”っているのか?」
「当たり前です、私がどこから産まれたかなんて、当然母親からじゃないですか。私は貴方と違って”産まれた時から”妖精です」
「まぁ俺も産まれた時は可愛かったそうだしな・・・ふーん、でお前、父親は?」
「今は神様の側で雑用をしてますが?」
「お前は男の妖精と女の妖精がセックスして出来たんだ・・・」
「露骨に言わないで下さい」
「お前も交尾するのか?」
「うっわー、このヤクザ、妖精に向かってなんて台詞をw」
「お前の母ちゃん、ヤクザにもてあそばれたって言うけどよ、その小さな身体をどうやればもてあそべるんだ?」
「私たち、飛べるでしょ?」
「あぁ、羽があるしな」
「当然、飛ぼうとしないとか下に向かって動くことも可能です」
「重力ってよく働くよな。社畜以上に勤勉に」
「可愛い妖精が男のアレに抱きついて上下に動くと・・・」
「下劣な・・・」
「そうやって3日間も奉仕して母はそのヤクザに惚れたのにっ!」
「捨てられちゃった・・・か」
「そうです、酷い話でしょ?しかも、虫眼鏡で色んな部分まで観察されてっ!」
「実はお前、ヤクザの子だったりしてなw」
「失礼なwww人間と妖精の間に子供は出来ませんっ!」
「あ、そうなんだ」
「本当にヤクザってデリカシーに欠けると言うか、下品ですね」
「そうだよ。で、お前は何しに出てきたんだ?」
「あ、忘れてました。実は貴方は神様に選ばれて・・・」
「選ばれて?その先を言えよ」
「・・・神様も何でヤクザなんかを選んだんだろう」
「うっさいわ。続きは?」
「貴方に3つの特別な能力を授けに来ました」
「ナンボや?」
「神様からのプレゼントですから無料です」
「いや、俺は信じないね。基本プレイ無料って言うゲームでさえ課金しないと満足に遊べない世の中だし」
「リアルはゲームじゃ無いですよ?」
「人生がゲームだったら、制作者を呪い殺すだろうな、俺は」
「どこかでそんな小説を読んだ記憶があります」
「へぇ、妖精のくせに本を読むんだ?」
「あんた、妖精に喧嘩売るんですか?」
「おおよ、ヤクザのくせに妖精に喧嘩売るんだよ」
「もういいです。能力を授けますから受け取ってください」
「だからよ、無料じゃ無いんだろ?何か要求する気だろ」
「無料ですってばっ!」
「代償は払わなくてもいいと理解していいんだな?」
「いや・・・その・・・」
「ホレ、やっぱり裏があるんじゃねーか」
「ヤクザってしょっぱいですね」
「生き馬の目を抜く世界だからな、任侠もへったくれも無いわ」
「分かりました、では能力を授ける代わりに」
「言えよ、ボランティアの人生を送れとか世界を救えとか言うんだろ?」
「あ、言っちゃいましたね?」
「あ?」
「世界を救ってください」
「断る。能力は要らない」
「それがですね、拒否権は無いんですよ。どうしても拒否するなら死んでもらうしかないんです」
「ヤクザだってそこまで阿漕な商売はしねぇよ・・・」
「貴方が死ねば”該当者なし”ってことで別の人が繰り上げ当選する仕組みなんで仕方ないですね」
「クソったれがぁ!」
「では能力を受け取ってくれますね?」
「お前、後ろ手に握ってるナイフを仕舞えや?」
「あ、見えちゃいましたぁ?」
「チラチラとわざと見せやがったくせに・・・」
「では一つ目の能力です。貴方は1回だけですが死んだ人を生き返らせることが出来ます」
「何人でも?」
「人数の制限はありませんが、貴方が知ってる人じゃないと駄目です。つまり、世界が滅んだ後に”みんなー生き返れー”は駄目です」
「世界って・・・なぁ?人間の最小集団存続個体数って300人くらいだっけ?」
「ヤクザ、難しいことを知ってるなぁ・・・」
「いちいちヤクザとか付けるなと言ってるだろうが」
「まぁ、300人いれば繁殖は可能でしょうけど」
「けど?」
「不細工ばかりだったら滅びそうですよね、あとニートだらけとか」
「そう言えばそうだな。俺の知ってる奴ぁ、ヤクザとかチンピラだらけだ」
「女性は知り合いにいないんですか?」
「さて?金儲けになるって女なら数人知ってるが」
「寂しい人生ですね」
「黙れや?」
「2つ目の能力も1回だけですが、貴方は任意の相手と”位置”を入れ替えることが出来ます」
「説明しろや」
「例えばですね、貴方が警察署に殴り込みをかけて射殺されそうになった場合、この能力でどこか安全な場所にいる誰かと入れ替わることが出来ます」
「割と酷い話をしてないか?」
「でも分かりやすいでしょ?ちなみに他人でも可能です」
「つまり、小学生を助けようとして車に跳ねられそうになった双子の弟の方を兄の方と入れ替えることも出来るってことか?」
「出来ますが、南ちゃんが泣きそうですね、ソレ」
「しかしよー、神様もケチだわ。全部1回だけってさ」
「でもですね?こんな能力を無制限発動させると貴方一人で世界が救えそうじゃないですか」
「ちょっと待て。俺以外にもその”神様詐欺”の被害者がいるのか?」
「詐欺じゃないですよ。実際に能力を授けたわけですから」
「で、そいつらは唯々諾々と世界を救うために立ち上がったのか?」
「別に。能力を授けてから世界を救うように伝えただけです」
「従うかね?そいつら」
「救わなければ自分も滅びに巻き込まれて死ぬわけですから」
「タチ悪ぃぞ、おまえら」
「事実ですから。そして皆さん、快諾してくれました」
「何人いるんだ?どこに行けば会える?」
「秘密です。ヒントとしては」
「ヒントね・・・」
「タバコの煙を吸い込むと鼻のあたりの血管が浮き上がる」
「その手のネタはいいからさ?どうすれば会えるんだよ」
「世界を救うと言う共通目的があるわけですから、貴方が世界を救おうとすれば必然的にに会えるわけです」
「使えねぇな、おまえ」
「あと、貴方に授けられた能力は当たりの部類です。中にはズボンを穿こうとすると、上げても上げてもずり落ちる能力を授かったひともいますから」
「ソレは悪夢だな、おい」
「まぁ女性でしたし、死ぬまでスカートを穿くか痴女になるかですね」
「その女は可愛いかったか?」
「かなりの美形ですが、貴方まさか・・・」
「うん、リーバイスの倉庫に閉じ込めて俺が颯爽と助けることにしたい」
「好きにしていいですが、世界が滅ぶ前にやった方がいいですよ?」
「そうするわ」
「3つ目の能力は、1回限定じゃないです」
「お、いいねソレ」
「切っても切っても生えてくる小指」
「テメェっ!ヤクザを馬鹿にしてんのかっ!」
「でも便利でしょ?」
「考えてみれば便利だな」
「トカゲのしっぽ切りみたいなもんですからお似合いですよ」
「いちいち突っかかるな、おい?」
「では能力を授けました。貴方の場合は能力が無意識に発動することはありません。強く念じれば発動します」
「分かった」
「ではここにサイン貰えます?印鑑でもいいですけど実印でお願いします」
「何これ?」
「能力の受領書です。コレが無いと私は仕事をサボったと判断されてボーナスの査定に響くんです」
「しょっぱい話だ」
妖精さんは世界を救いたい。 四月朔日 祭 @Memorial-Sky
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