第2話 「から揚げ」問題。

ちょっと「いいな」と思っていた女性上司(32歳)から「今夜は寝させないから♡」と言われて舞い上がった。俺の部署は少々特殊で、ほとんどの課員は個別に案件を抱えてる。まぁ「IT土方」とか「編集者」みたいなもんだ。そして上司もまた割とマジで毎日が〆切って感じで大変そうだが、今日は何か晴れ晴れとした表情だったし、「今夜は・・・」ってセリフにも最上級の微笑み付きだ。


3時間後、俺は自宅で「お持ち帰り残業案件」に没頭していた。あのクソアマ、明日になったらトイレに閉じ込めて上からバケツで水をぶっかけてやる・・・


「おめでとうございます!」

「黙れ」

「え・・・?はい・・・えっ?」

「誰だよ、いきなり」

「妖精です」


俺はその妖精とやらを鷲掴みにして窓の外に放り出した。時間が勿体ない。


「だからっ!おめでとうございますですってばっ!」

「どこから入った?」

「妖精はどこにでも現れまs・・・」

「よし、今からこの ”熊野” って言う名前のキャリアウーマンのところに行って、一晩中アニソンを歌ってこい」

「それは私の仕事ではありません」

「俺は仕事中なんだよ?」

「まあまあ、話を聞いてくださいよ」

「勝手にしゃべれ、俺はこのクソったれな紙の文書をパソコンに打ち込んでるから」

「単純なお仕事で羨ましい・・・」

「あ?誤字やらおかしな文章を直しながら打ち込む苦労を知らんのか?」

「えぇ、妖精ですから」

「さっさとしゃべって消えろ」

「貴方は神に選ばれて3つの能力を手に入れることになります」

「女性上司よりはマシな神様だろうな?」

「一つ目の能力はタイムリープ能力です。貴方、コレ大当たりの能力ですよ」

「ほぉ、事実なら凄いな。仕事辞めてギャンブルでも株でもいいから稼いで悠々自適になれる」

「あ、それは無理ですね」

「何でよ?」

「過去にしか戻れない限定が付いてます」

「使えねーっ!」

「例えば週末まで待って競馬の結果を見て、そこから”過去”に戻って馬券を買えば大儲けですが、戻ってこれないわけですからねぇ」

「いや、ほんの30分も戻れば儲かるわけだろ?そのままその時間軸で生きてりゃ問題無いじゃないか」

「ソレは多分出来ないんだと思います」

「何故?」

「能力の発動には神様の承認が必要ですから、金儲け目的とかだと却下されるはずです」

「つまりは神様次第ってことか」

「そうなりますね」

「ちょっと神様の住所教えろや?」

「何考えてるんですか、いやちょっとその木刀は仕舞ってくださいよっ!」

「ったく・・・大事なシーンでタイムリープ出来なかったら末代まで呪うからな?」

「あなた、神様を何だと思ってるんですか?」

「人が皆神の子ならば」

「はい、神の子です」

「避妊も出来ない馬鹿」

「もういいです」

「友達にもいるんだ、避妊しないからもうあちこちに子供がいるっつーのが」

「続けますね。2つ目の能力は・・・あ・・・コレは・・・」

「何だ?」

「あらゆるキャラクターを一人だけ現実社会に召喚できる能力ですっ!本当に貴方は大当たりの能力ばかりですね」

「キャラクター?アニメとかそんな感じか?」

「いえいえ、アニキャラだけでは無いですよ。偶像化された、例えばアイドルでも悪人でも召喚出来ます。ただし、人間の場合は今の時点で生きてることと年齢を変えられない限定は付きますが」

「ほお、ではあのアイドルの〇〇も召喚できるのか?」

「はい、多分握手しに来ると思います」

「微妙な能力だな」

「仕方ないですよ、アイドルはファンの間で偶像化された姿でしか召喚できませんから」

「AV女優は?」

「お任せします」

「3つと言ったな。最後の能力は?」

「最後の能力は選択制です。能力を授かるか”報酬”を受け取るか選んでください。報酬の方は、あの可愛い〇〇と言うアイドルと一晩共に出来てラブラブなことが出来る」

「素晴らしいな」

「もう1つ、能力を授かる場合ですが。手の平から無限にから揚げを取り出せる能力ですが、言うまでも無いですね」

「から揚げ」

「はい?」

「から揚げがいいな」

「ちょっと質問していいですか?」

「何だよ?」

「私、神様から言い使って色んな人に能力を授けてきました」

「それで?」

「例えば女性の場合なんですが、唐揚げと男性アイドルの選択をさせると、アイドル一人ではなくアイドルグループのメンバー全員とか4~5人を選んでもいいか?と訊かれます」

「それがどうかしたか?」

「その女性は複数の男性アイドルを呼び出して、一晩中それはもう・・・破廉恥な行為に没頭したいと言う願望を優先させてます」

「まぁ普通じゃねーか?」

「ところが男性にから揚げかアイドルかって選ばせると必ずから揚げを選びます」

「そうだろうな」

「何故ですかっ!」

「何故って・・・から揚げって美味しいじゃん」

「いや、唐揚げなんて100g150円でナンボでも買えるじゃないですか。アイドルは中々出会えないし、そもそも仲良くなれる可能性だって低い・・・」

「いや、無限に積み上がるから揚げの前ではどんなアイドルも色褪せて見える」

「たかがから揚げですっ!」

「されどから揚げだ」

「では私の権限でサービスを拡大します。アイドルだけでなく、どんな女性でもいい、世の女性の1人を嫁に出来る権利とから揚げでは?」

「から揚げ」

「分からない・・・なぜ男性はから揚げを選ぶのか・・・?」

「で、その能力の使い方は?」

「はぁ・・・(溜息) 念じればいいですよ。ただし、迂闊に能力が発動したりしないようなってますので強く念じないと駄目ですけど」

「ふーん」

「あ、いい匂いがしますね」

「ほら、唐揚げ」

「まぁから揚げは無限に出てきますからお好きなようにして下さい。キャラ召喚とタイムリープは本当に強く念じないと駄目ですよ?」

「そうだな。キャラ召喚は1人限定なんだし」

「そうです、よく考えて召喚してください。タイムリープは何度でも発動出来ますが過去にしか行けませんので注意してください」

「分かった。ところで・・・」

「はい?」

「お前としゃべってたせいで仕事が滞った」

「私のせいですか?」

「そうだ。手伝っていけ」

「妖精に手伝いをさせる気ですか、貴方はっ!」

「童話でもあるじゃんよ。寝てる隙に靴を作ってくれたとか、どっかの眠りこけてる王女様を守り続けたとか」

「ああ・・・寝てる王女に勝手にキスをする王子ってヤバいですよね」

「あぁ、ヤバい」

「で、私は何をすればいいのですか?」

「その書類の山の中から特定の筆者の書いたものを選びだしてくれ」

「ホントにもう・・・雑用っすか・・・」

「明日までにこの仕事を仕上げないと、今月の給料がどんぐりになるんだよっ!」

「リスなら喜んで受け取りそうな給料ですね」

「うっさいわ」

「あ、ここにサインか印鑑をもらえますか?」

「何これ」

「3つの能力を受け取りましたって言う受領証です」

「ほれ、これでいいか?」

「あっさりとサインしましたね」

「時間が無いんだ」

「もしもこれが詐欺だったらどうするんです?」

「相手が神だろうと叩き潰す」

「いや、うちの神様、空手5段ですよ?」

「そんなもん、硬い棒で叩けば死ぬ」

「うわぁ・・・」

「さっさと手を動かせ、夜明けまであと5時間しか無いぞ」

「大事なことを言い忘れてました」

「うわ、詐欺っぽいな、ソレ」

「大したことではないですよ」

「でも大事なんだろ?」

「はい。授けた能力で世界を救ってくださいね」

「なぁ?」

「はい」

「よく見る”異世界に転生して”って設定はあるか?」

「無いです。リアルにこの世界を救うのが貴方の使命です」

「無理」

「無理でもいいですよ、でも貴方だって世界が滅んだら死にますよ?」

「クソったれがぁっ!」

「あとですね」

「あんだよっ!」

「能力を授けられた仲間が沢山いますので協力して行動したらどうかと」

「誰が能力者なんだ?」

「能力者同士は引き合いますから、いずれ出会うでしょう」

「スタンド使いみたいだな」

「では頑張ってください」

「お前もあと5時間、ここで頑張れよ」


5時間で持ち帰り残業を片付けた男、志賀将司からお礼の唐揚げを持たされた妖精さんは朝日の中に消えていきました。

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